アニメランナー - ANIMERUNNER

No2. 制作会社の職業構造から見た未来像

安田:なるほど。話は少しずれますが、先ずアニメーターについて定年制ってどうなっているのですか?作画スタジオには定年があるのだろうかという疑問です。アニメーターはある種の職人さんじゃないですか。一方ではクリエーターとも言われている、そういう人たちの現役の期間は平均どれくらいなのか。そして、明らかに個人別のランクみたいなものが存在しているのだろうか?これは制作会社がいって良いネタなのか悪いのかは別にしてね。

堀川:全然問題ありません。

安田:スーパーアニメーターがいれば当然、新人もいるわけですし、社員アニメーターがいればフリーランスのアニメーターもいる、作画の流行り廃りみたいなものがある中で大きな基準みたいなものがあるのでしょうか?                           

アニメスタジオは基本的に何か工業製品、例えばお皿とか調理器具を作る業種ではなく、アパレルのブランドとかレストラン産業とか個性を求められるジャンルのビジネスに属していると思います。アニメスタジオが作るものには個性が求められるのだということが、アニメ産業としてはっきり語られていない。じゃあどういう職業だということを一般の企業同様に分析し発表した方がいいと思います。周りの産業、テレビ、映画、パッケージ、ライツ、グッズ、海外販売、映像配信などのデータは出ていますが、アニメ制作会社自体のデータや構造がほとんど出ていない。

100年200年続いている企業と照らし合わせながら、事業および企業のモデルケースを出すべきだと思います。社員アニメーターをかかえている制作会社と、ほとんどフリーランスのアニメーターに委託している制作会社では、その企業構造は明らかに違いますから。40代になったら多くのアニメーターが職を失うのか、会社の中でも別の業務、例えば演出とか監督に変わるのか?そういう業種としてのリサイクルや未来像が提案されるべきだと思います。

堀川:データではなくても周りを見れば実感しているところはあります。例えばアニメーターを定年制にして、50代とか60代にするなら、そこまで第一線で描き続けられる人は圧倒的に少ないだろうなと思います。僕には他の業種の知識が無いのですが、先ほどの社員制かフリーランスかの考え方もいくつかの視点があって、僕は例外的な才能を持った人を除いて、30歳くらいまでは企業にとってもアニメーターにとってもフリーランスがいいと思っています。

職人メーターに求められるのは、高い技能とスピード(生産性)なんですが、例えば原画マンの場合、『完成度の高い原画を描きたい』と『いっぱい原画を描きたい』のモチベーションでは、圧倒的に多いのは前者なんです。TVシリーズの1話を一人で1本とか半パート描きたいという人もいますが極稀です。なので、固定給にした場合には、生活には困らないので更に原画の完成度を上げる方向にシフトして生産性は上がらないんですね。じゃあ、給与に見合うノルマを課せばいいかというと、「そんなに縛りが厳しいならフリーランスでやっても変わらない。むしろ自由に仕事を選べる分フリーランスの方がいい」ということで、力のあるアニメーターは社員契約を選択しないんですね。

もう一つ、アニメーターを育成する視点から、年齢と技能の進歩の関係を見ると、必要な資質のうち若い頃にしか身につけられないのがスピードなんです。完成度はちょっと遅れてからでも探究できる。スピードの限界が見えてくるのが一般的に30歳前後だと思います。なので、自分のスピードの限界を知るまでは、彼らのモチベーションが完成度ばかりにシフトするような契約はしない方がいいんじゃないかと僕は思うんですよね。

ただ、フリーランスのアニメーターにもいくつか契約の種類があって、出来高報酬のみと、出来高プラス固定報酬と、作品契約期間中の月額固定報酬などです。この中でスピードも探究しつつ、上達した技能に対する付加価値として、出来高にプラスしていくらかの固定報酬という契約形態が30歳くらいまでは、スピードをつけるのに理想なんじゃないかと、今までの経験から考えています。

新人の原画マンにアンケートに答えてもらった時に、彼ら原画の月産がどれぐらいか訊いたら、大体30カットぐらいだったんです。これは頑張ってる方だと思うんですよね、新人原画マンなら。今のTVシリーズで求められる原画を描くには、昔よりも物理的に時間がかかるんです。よく動く作品になれば第一線のアニメーターでも1ヶ月に50カットがやっとだと思うんですよ。20年前は70カットから80カットだったと思います。今は30歳で月産50カットの原画が描ければ充分一人前の職人だと思うんです。

若手は出来高でもその数は目指して欲しいんです。30代を過ぎてからスピードが更に伸びることはまず無いので、そこから先はできるだけその数を維持しつつ、完成度を上げることも意識する。さらに、出来高以上の付加価値を何でつけるかということを意識して下さいという話をしたんですね。フリーランスでも社員でも、企業がその人の出来高以上にどんなことに付加価値を認めて、言い換えれば現場での存在価値を認めて、そこに資本を投下するかは、我武者羅に描きつづけた20代を過ぎたところから、先輩を参考にしたほうがいいと思うんです。

例えばその人が上手い原画マンで、原画を担当したシーンがとても見栄えのするシーンになって、演出(監督)や作画監督が「助かる。あの人が必要だ」と言ってくれるようになると、単価の出来高以上に、その高い技能に報酬が支払われるようになる。

もしその人がスタッフの中心的役割を担う人物で、その人が存在することで牽引役となって現場の空気が引き締まったり、ムードメーカーになったりする場合にも、やはり作品や制作チーム全体に及ぼす良い影響力はとても大きなものになります。プロデューサーから見ても、是非現場にいて欲しい人だと思います。

もっと分かりやすい例ですと、企業から長い目で見たときには『職人を育ててくれる人』が最もありがたい訳です。その人一人の月産は50カットの優れた原画かもしれませんが、その人の元でいずれは優れた原画マンが5人、10人と育つ訳ですから。

制作現場にはいろんなパターンの付加価値(=作品や制作チームや企業への高い貢献の仕方)のあり方があるので、若手は将来自分の資質を活かしてどんな付加価値を獲得していくかを考えて欲しいんですね。理想は、若手の将来の目標になるような、色々なモデルの付加価値を持った先輩が企業の中に何人かいることだと思います。

若手に将来どんなアニメーターになりたいかを訊くと、大抵『すごく上手いアニメーター』だったりします。それは当然目指すべき目標で、最大のモチベーションなんだけれど、ずっとその技能一本で食べていけるのは業界でも名の通った極一部の、50人とか100人に一人のスーパーアニメーターなんですよ。でも、もしそこに自分の技術レベルでは行けそうにないと気付いたときにも、基本的な技能を身に付けていれば他の付加価値を獲得して食べていく道はあると思うんです。そのモデルが今の40代以上のアニメーターに少ないことが、若手の将来を不安にさせているんじゃないかと最近考えているんです。

じゃあこの付加価値という考え方を企業に適用したらどうかというと、これが『ブランド』だったり、先ほど安田さんの言われた『個性』だと思うんですよ。企業が職人の作る製品ばかりではなく存在価値を評価するように、僕らは委託された作品を高い品質で制作していくことに加えて、お客さんが僕らの商品や企業に存在価値を見出してくれるような何かを意識して獲得していかなくちゃいけないということじゃないか、と考えるようになったんです。

安田 猛氏

プロフィール

株式会社KADOKAWAの常務取締役として実写、アニメ、ゲームなど映像系コンテンツを統括。また株式会社プロダクション・エースの代表取締役会長、株式会社ドコモ・アニメストア代表取締役社長のほか、株式会社角川大映スタジオ取締役、株式会社キャラアニ取締役、角川メディアハウス株式会社取締役、グロービジョン株式会社取締役などを兼任している

P.A.WORKS制作作品では『Another』(2012年)で企画、プロデューサー、『RDG レッドデータガール』(2013年)で企画、エグゼクティブ・プロデューサーを務める。