2005.03.07  
   
 
 
  攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX
#03‘ささやかな反乱’ より

   
 

No.04 「ずいぶん遠回りしたような」

井上:昔はリアルに水面を表現するとかさ、リアルな炎を表現するとか、実写に見まがうような爆発を表現するようなことは無かったから。エフェクトの表現もずいふん多彩になったからね。 20年前の煙の描き方なんて本当にワンパターンで、それを使いこなせれば大抵こと足りたんだけど、それこそ今あるような巻き込むような煙の表現をね、20歳のころの自分が描けたかって言うと、それを描くのに本当に四苦八苦したかもしれない。俺は当時の技術、簡単な煙の描き方をまず覚えてから、それでは物足りないと感じて、庵野(秀明)さんとか磯(光雄)君が編み出した表現を後から覚えたからなんとか対応できているようなもので、今流通している高度な表現をいきなり新人が覚えるのは、ひょっとしたら困難なことなのかなぁ。それで一人前のアニメーターになるのが少し後ろにズレている―その分析が正しいかどうか分からないけど。
堀川:科学の進歩といっしょで、昔の科学者は化学、生物、物理と幅広く研究できたけれど、今それを最先端まで網羅することなんてとても出来ないのと同じですかね。基礎まで学生で学んで、あとは最先端で勝負するなら、とても狭い分野で極めなきやならない。
井上:そうだよね。
堀川:アニメーターも表現のトップを目指そうと思ったら、そう云うスペシャリストの道しかないんですかね。
井上:科学といっしょになるかはわからないけど‥・どうだろうね。
堀川:若いうちにあまり偏らないように、まずオールマイティーな原画職人になれば、フリーになったとしても仕事の選択基準が偏ってしまうようなことはなくなるんじゃないでしょうか。
井上:ただ、ここまでが基礎でここからはその先の技術だって、科学の基礎と応用というようには線が引き難い。同列だから。
従来の歩きのパターンがあるじやない、中3枚(動画の中割3枚)入れて歩きますって云うのと、じゃあそれに体重移動を加えた更にリアルな歩き。これをパターンの歩きを覚えてから、その次にリアルな歩きの表現を追及すべきなのかって考えるとね、それはいいことなのかどうか疑間なんだよね。やはり最初から‘歩き’ってどんなものかを追求したほうがいいのかも知れない。それは俺達が苦労したところなんだ。俺達は新人のころに、本当にハンコで済むようなパターンの‘歩き’や‘走り’を記号で覚えてしまったんだよね。あとでそれが違うと気が付いてから、『本当の‘歩き’ってどんなもんなんだっけ?』つて一から勉強しなおすよりも、本当の‘動き’を最初から勉強する方が、ハードルは高く感じるかもしれないけど、そのことを当たり前に受け入れた方がいいんじゃないか、かえって早いんじゃないかって気もする。
俺達はずいふん遠回りしたような気がしてるんですよ。新人のころに「走り、それでいいの?」って疑問を投げかけてくれる人が傍にいたら、ひょっとしたらもっと早くに高い表現ができたんじやないかなって気もね。ずいふん、10年くらいロスしたような気もしているんですよ。アニメーションの必要最小限の基礎って20年前に俺達が覚えたようなことと、今もそんなには変わらないと思うんだけど、果たしてまた遠回りするようなことをね、始めていいのか。どっちが正しいとはなかなか言いづらい。



                     No.05 「歪(いびつ)な表現」に続く


 
       
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