アニメランナー - ANIMERUNNER

No1. プロローグ

堀川:2003年頃、神山健治監督、アニメーターの井上俊之さん、Production I.Gの石川光久社長にインタビューをして、当時のP.A.WORKSのビジョンを考える参考にさせてもらったことがあるんです。アニメーション業界で頑張っている人の刺激になればと思い、それをウチの公式HPの【アニメランナー】というコーナーで公開しました。今でも時々読み返すんですね。あれを記録しておいてよかったと思います。
あれから10年経って、今度は現場をどう作っていくかというビジョンから、P.A.WORKSがアニメーションの制作会社、企業として今後どこを目指すべきかを考える時期だと思いまして、今年は何名かの方にインタビューをお願いして、今後の参考にさせて頂こうと思いました。
それで、東京では分刻みのスケジュールでとてもお忙しい安田さんが富山本社に来社されたこの時がチャンスとばかりにインタビューをお願いした訳です。受けて頂いてありがとうございました。僕だけじゃなく、角川の安田さんの話は、アニメーション業界の経営者はみんな聞きたいと思いますから。

安田:本当ですか?

堀川:(笑)ほんとうです。

自律的なアニメーション制作会社のあり方を探る

堀川:少し前にアニメーターの自律を考える上で、新人原画マンを対象に簡単なアンケートをしたことがありまして、今日は自律的な制作会社を考えるために、そのアンケートの質問を制作会社に置き換えて考えてみました。
①この60年の商業アニメーションの歴史で、制作会社のスタイルはどのように変わってきたか。アニメーションの制作会社が今後目指す選択肢にはどんなものがあるか。
②制作会社とクリエーターは、どんなことに充足感を得ているか。
③制作会社が目標とする実在の企業モデルにはどのようなものがあるか。
④脆弱な経営基盤をしっかりとしたものにするために、将来的にクライアントとどのような依存関係を意識するべきか。クライアント、アニメーションファンにとって、制作会社がブランド力を持つような付加価値とは何か?

新人の原画マンへのアンケートから見えてきたこの業界の問題は、僕ら40代以上の仕事のスタイルが若い世代のアニメーターにとって、将来の目標たりえていないということだったんですね。彼らにとってロールモデルになるようなキャリアパスを築けなかった僕らの世代が省みて、この60年の商業アニメーション業界の流れの中で、アニメーターはどんな選択をしてきたのか、これから若い世代はどんな選択を模索するのかを考えてみたいと思ったんですね。同じように、このアニメーターへのアンケートを制作会社に置き換えてみたときに、今後どんな制作会社を目指すべきか、どういう戦略を選択していくかを考える段階だと思いました。というのも、これからアニメーションの制作会社を起業する世代から見たときに、10年以上続けている制作会社が若い制作会社のモデル足り得るか―作ることで一杯いっぱいで、いつまでも脆弱な経営基盤の自転車操業状態なんじゃなくて、自律的なアニメーション制作会社のあり方を探ることを意識しなきゃいけないんではないかと思うようになりました。じゃあ今、制作会社の選択肢にはどんなものがあるかを考えたいんです。

まず、制作委託費がアニメーションの制作会社の売上の大部分と考えるなら、アニメーション制作では制作期間がコストに直結するので、TVシリーズを中心とした、短期間で品質を落とさずに量産できるシステムを目指すか。ただ、そのシステムといっても基本的には労働集約型なので、デジタル化による生産性向上の恩恵を受けられなかった作画工程では、アニメーターを増員した短期人海戦術が主流か、途中の工程を省いて凌ぐのが現状なんですね。これではクリエーターの達成感や拘りは満足させられず、この方法を長期間続けるとモチベーションを保つのが難しくなってきます。

もう一つは、量産はできないけれども定期的に高い予算の劇場作品を、高いクオリティーで制作できるプロダクションを目指すか。劇場単発作品にはブランド力も必要です。近年感じているのは、TVシリーズの品質がデジタル技術の向上―特に撮影と背景―によって底上げされて、TVシリーズ作品と劇場作品との品質の差が縮まっていること。第一に求められているのはストーリーであって、高品質な映像制作の予算と興行収入の関係は更に薄くなっている。そのことが劇場作品の制作予算に影響しています。悪く言えば劇場作品の予算が下がっている。良く言えば、出資者のリクープラインが下がることで今後劇場作品が増えるだろうなと思います。

僕の理想はというと、基本的には毎週放映されるTVシリーズを活気ある現場で制作しながら、視聴者の反響と近いスタジオでありたいんです。でも、クリエーターの『やりがい』を消費し続けるような人海戦術的な作り方ではない量産システムを作ることと、大作ではなくてもプログラムピクチャー的な劇場作品を定期的に発表できるような制作力とブランド力を兼ね備えた制作会社なんですよね。このイイとこ取りのような目標を、今のような作品制作委託費が売上の大部分を占める制作会社が目指せるかというとちょっと疑問なんですよね。

安田 猛氏

プロフィール

株式会社KADOKAWAの常務取締役として実写、アニメ、ゲームなど映像系コンテンツを統括。また株式会社プロダクション・エースの代表取締役会長、株式会社ドコモ・アニメストア代表取締役社長のほか、株式会社角川大映スタジオ取締役、株式会社キャラアニ取締役、角川メディアハウス株式会社取締役、グロービジョン株式会社取締役などを兼任している

P.A.WORKS制作作品では『Another』(2012年)で企画、プロデューサー、『RDG レッドデータガール』(2013年)で企画、エグゼクティブ・プロデューサーを務める。