アニメランナー - ANIMERUNNER

No5. アニメユーザーの育成とマニア向けアニメ

安田:一方でキー局がアニメーションの開発を積極的にやってくれないと、子供たちがアニメーション離れを起こすかも知れない。アニメを観る習慣は子供の頃に育まれ、好きになって趣味になっていくわけです。子供たちにとってアニメがちゃんと定位置にいられるのかという問題です。

今、子供がアニメを愛しているのはNHKのお陰だと思っています。NHKはちゃんと自局の予算でアニメを作り続けているじゃないですか。それでもNHKの受信料の問題で番組制作費が一番高いって言われて、制作本数が減るんじゃないかとも言われてたりして。受信料の徴収が減ったからとか、視聴率が低かったらやらないとか、そういうのはNHKとしての存在意義を問われるような所でもあるので、教養番組もドラマもアニメもね、しっかりNHKには作ってもらって、子どもたちをアニメ好きにしてもらいたいと思いますよ。キー局は明らかに視聴率とか製作費の高さ、あと権利問題とかを含めて考えるとアニメに対して、ちょっと冷淡になってますよね。

菊池:アニメーションの製作費は特にね、バラエティ番組なんかと比べたら全然高いですからね。

安田:特にお笑いブーム(長いのでブームじゃないかも)がずっと続いていて、それで視聴率も取れるならその方がいいんじゃないかみたいなことで、アニメの開発が益々減ってしまうような状況の中で、一方ではさっきいった1クールで大人向けのアニメが今主流になっている。

子どもを啓蒙するためのキッズ向けアニメとか、商品を売るための宣伝用アニメの方がよっぽど量産体制を取りやすいでしょう。年間契約で作品を取りやすいし、制作会社的にも将来の見通しが立てやすいと思います。絵柄もシンプルだし。例えば人気があれば3年でも4年でも同じアニメーションが続く。そういう長期のマーチャンビジネスをメインにしたアニメーションを軸に制作会社を語るのか、それとも1クール物をマニアに向けて提供していくアニメーション制作会社のあり方を求めて行くのかでも全然方向が違う。前者はどんどん減っていますよね。キッズアニメ自体が過去の遺産になりそうです。

昔は何系といわれる会社が多かったんですよ。つまり大手の制作会社に付随して、下請けの制作会社や、一つの工程に特化した会社がピラミッド型の構造になっていて、アニメーションの制作会社はグループ的に成り立っていました。

ある特定の大手制作会社が年間の作品を請け負うと、系列会社に再分配する構造になっていたから、アニメーションの制作会社はみんな厳しかったかもしれないけれど、それなりに安定していたわけです。

それが、テレビ局とか玩具メーカーの方向転換によって、アニメーション自体―映像そのものを商品にした。製作委員会型のスキームが登場して、そういったマニアック系の作品を制作する制作会社が増えたっていうことですよね。パッケージユーザーに向けてアニメーション自体を商品化していくということが、多種多様化あるいは絵のクオリティの複雑さを生んでいる原因ではあるんですよね。そこが、アニメーション業界初期の制作会社の有り様と近年の制作会社の有り様の違い。その中で、まあできれば一番いいのは、両方持っている制作会社がね。

堀川:今、ビデオグラムが売れなくなってきて、別のビジネスモデルを考えなきゃって、アニメーション業界全体が危機感を持っていると思うんです。マーチャンを中心にしたビジネスモデルに翳りが見えてきた当時のアニメーション業界はどうだったんだろうって考えるんです。今と同様に、テレビ局もアニメーションに出資しなくなったから、マーチャン以外の別のビジネスモデルを考えなきゃっていう危機感を持っていたんでしょうか。

つまり、その打開策から生まれたのがターゲットを子どもたちとは別の層に開拓することですね。映像作品自体のクオリティーを求めるファン層に対してパッケージ商品を売るOVA作品を出した。その成功から戦略的にテレビシリーズも映像クオリティー重視のパッケージビジネスに傾いて行ったんでしょうか。

テレビシリーズで製作委員会方式を初めて導入したのが【無責任艦長タイラー】だと思うんですが、僕はこの作品に制作デスクとして関わっていたんです。当時聞いていたのは、作品のクオリティーを守るためには制作に充分な準備期間が必要で、テレビ局の最終的な稟議が通るのを待って制作現場が動き出したのではとてもいいものを作ろうとする制作現場を守れない。だから、製作委員会に出資金を集めて、制作現場の進捗状況に合わせてそこから制作費を捻出できるようなシステムを考えた、ということだったんですね。

先ほど説明して頂いた局の出資控えに対してと、局の番組編成時期とアニメーションの制作スケジュールの噛みあわなさから、クオリティー重視作品の制作現場を守る対策だったということですね。これらの流れがマーチャンビジネスのシュリンクにアニメーション業界が危機感を覚えたところから、かなり意識的に作られた新しい市場形成の流れなのか、あるいはアニメーション業界に人材が育ってきて、個性的なクリエーター達の「俺たちもっとこんな作品作りたいんだ」に乗ってOVAを出してみたらヒットしちゃったことから生まれた偶然の流れなのかっていうのはどっちなんでしょうね。

安田:【無責任艦長タイラー】は僕が富士見書房でドラゴンマガジンの編集長だった頃、原作側としてアニメ化に参加しました(笑)。

マーチャン主流からセルビデオ&キャラクター商品主流にビジネスが変革した時期、テレビ局からアニメ離れが始まったと思います。彼らにとってニュースもバラエティも時代劇もドラマもアニメも同じで視聴率が取れれば何でもよいわけです。制作費が高く、視聴率が取り難いマニアックなアニメは真っ先に遠ざけられました。

その頃、提供料の安いテレビ東京系にアニメが集中し始める。テレビ東京は後発で当然、他局との視聴率競争に惨敗でしたから独自路線を歩んだ。それが夕方のアニメ番組ベルト、そして、深夜のアニメ番組ベルトだったということです。
 元々、製作委員会はバブル時代に映画作品に一般企業が投資するためのもので、様々な理由で節税効果があった。今も当然あります(笑)。TVアニメの成立に製作委員会が使われるようになったのは上記の事情でテレビ東京が視聴率競争ではなく、セルビデオ&キャラクター商品ビジネスで独自の路線に方向転換したことにあります。

代理店がマニアックなアニメを成立させるためにキャラクター企業(玩具、お菓子、文具、音楽、出版)とCMスポンサー企業(家電、自動車、食品、薬品、アパレル等々)、アニメ制作会社をつなげるために編み出した錬金術だったわけです。
 【スレイヤーズ】【新世紀エヴァンゲリオン】などが生まれてくるキッカケになったと思います。

一方では堀川さんの言うOVA作品も同時期に派生して【メガゾーン23】【ガルフォース】【幻夢戦記レダ】【機動警察パトレイバー】【天地無用!魎皇鬼】など人気OVAシリーズもしくは、OVAからTVシリーズに育った作品も多数、生まれました。

安田 猛氏

プロフィール

株式会社KADOKAWAの常務取締役として実写、アニメ、ゲームなど映像系コンテンツを統括。また株式会社プロダクション・エースの代表取締役会長、株式会社ドコモ・アニメストア代表取締役社長のほか、株式会社角川大映スタジオ取締役、株式会社キャラアニ取締役、角川メディアハウス株式会社取締役、グロービジョン株式会社取締役などを兼任している

P.A.WORKS制作作品では『Another』(2012年)で企画、プロデューサー、『RDG レッドデータガール』(2013年)で企画、エグゼクティブ・プロデューサーを務める。