アニメランナー - ANIMERUNNER

No.11 業態変化の中で制作会社が生き残るには

安田:アニメ制作会社にも1クール作品をメインにした小規模マニファクチャ的な会社と、大量生産型でキッズ向け作品などをメインにしてきた会社がありますよね。ひと口に制作会社と言っても両者の間には実は大きな隔たりがあります。1クール作品という一気呵成に短期決戦ができるスキームができたおかげで、小さな制作会社が成立するようになったんです。

菊池:そうかもしれませんね。

安田:元々小さな制作会社を生み出していたOVAビジネスは、完全にすたれてしまいました。だけどOVAと4クール作品など長いシリーズとの中間の規模にあたる1クール作品があってちょうどバランスが取れているのかもしれません。

菊池:確かに、それならば小さな制作会社でも作れます。

安田:スーパーアニメーターや年長のアニメーターを雇うのは人件費が高すぎてむずかしくても、若手のアニメーターたちと一緒に元気にやっていくのには1クール作品は向いてると思います。年に二本くらい1クールものの元請け作品が確保できれば会社を維持できる構造になっていて、それでも事業的に厳しいときは大手の下請けをやるなど、うまく体制を組めれば制作会社としては成り立つのかもしれない。そういう意味ではアニメ業界はここ10年で明らかに構造が変わったんだなあと思います。長いシリーズものの作品がほとんど消えてしまって、それを中心に回っていたビジネススキームも崩壊してしまった。一方でそれに代わるものはパチンコのアニメーションパートだったりする。でもアニメ業界に対してその技術を必要として参入してくる会社があるというのが、先ほどの家電メーカーのような大量リストラをしなくていい要因、アニメ制作の需要が減らない理由でもあるかもしれませんね。

安田:ところでまとめるのが大変そうですが、これどうするんですか(笑)

堀川:まとめますよ。だって今後のうちの方針に関わることですから。

安田:そうですよね。自分が知っている制作会社が全部どこかの大企業のグループ入りするなど実際に文字化してみるとびっくりするような状況になっています。

菊池:そういうレポートも実際出ていて、いわゆる「業界再編」が進んでいるのは確かですよね。

安田:そうそう。業界再編が起きている。じゃあなぜグループ化されずに済んだ会社があったかというと一つは店頭公開して上場したからなんですよ。それによって資金繰りを得た。

菊池:そうですよね。

安田:もう一つは株の持ち合い、あるいは出版社などのクライアント側に株を売ることによって安定して作品の供給を受けている。経営的にすごく不安定になって株を渡した時期から柱になるような作品が安定してもらえるようになったと思うんですよね。

菊池:出版社などから「同じグループだからここに出そう」みたいな流れができたんですよね。

堀川:でも、大きな企業が「こんなにアニメーション制作会社に仕事を出すなら子会社化しちゃった方が楽じゃないの?」と思って制作会社を吸収(グループ化)してみたけれども、結局クリエイターをコントロールしきれずに手放すことが過去には多かったような気がします。グループ化されたとたんにクリエイターへの管理がものすごく厳しくなるんですね。企業としては当然ですけれども、「1ヶ月にどれぐらい仕事をやったか」の申告など。そうすると、フリーのアニメーターはみんな離れていってしまう業界なんです。結局企業には吸収(グループ化)できないとみなされて、クリエイターのコントロールは制作会社がやった方がいい、となった気がします。これが例えばパチンコメーカーみたいな資金が潤沢な所だと、同じような目には合わずに吸収(グループ化)できてしまうものなんでしょうか。

安田:もちろん企業カルチャーみたいなものもあると思うんですが、結局は時間をかけて環境を変えていったんだろうなと。一つは徹底的にグループに準じた社員構成にするということ。もう一つはアニメーターを契約社員的なニュアンスで雇ってコアタイムのあるフレックス制にして就業時間をある程度自由にするやり方です。達成給方式、年俸制方式、あと基本給プラス「何枚描いていくら」みたいな方式などいろんな企業体がそれぞれの最適解を探して苦心しています。昔は全部一律に親会社に合わせようとしたからうまくいかなかったけれど今は親会社もそういう運用を認めるやり方に変わっているでしょうし。以前はコアタイムやフレックス制という概念がなかったと思うんです。

菊池:20年以上前の話ですか?

堀川:20年ってことはないと思うな。僕が今年(2012年)業界22年だから。

菊池:じゃあ15、6年前?

堀川:そんなもんじゃないかな。

安田:フレックス制が定着したのはここ10年ぐらいの話ですから。コアタイム制とかもやっと導入されたじゃないですか。ウチのグループの角川大映スタジオだと技能社員がすごく多いんですよ。どうしてかというとみんなスタジオに映画のセットを作る人だから。

菊池:そうですよね。

安田:スタジオの社員なんですが、大工さんでもある。色塗ったりする人たちはペンキ屋さんでもある。

菊池:美術さんと大道具さんですもんね。

安田:元々大工さんやペンキ屋さん的な技術者を技能社員にしているのでフリーのアニメーターに非常に近いのかもしれないですね。

菊池:その場合の給与体系ってどうされているんですか?ベース(の金額)が決まっていて、プラスアルファの歩合という感じですか?

安田:そうですね。だって例えば何か突貫で作らなきゃいけないとなると・・・

菊池:「定時で」「タイムカードで」となったら、いろいろ難しい問題が出てきますもんね。

安田:だって「部下に親方が何人いて」という話ですから。

菊池:ゼネコンみたいですね(笑)

安田:みんな普段から「親方ァ」って呼ばれているんですよ。

菊池:安田さんが?

安田:違う違う(笑)

菊池:ああ、びっくりした(笑)

安田:「課長」の代わりに親方制度なんですよね。

菊池:ああ、なるほどそういうことか。すごいなぁ!(笑)

安田:私はその親方の上司なんです。色々ありすぎて訳がわからない(笑)

菊池:確かに。でも概念的にはフリーのアニメーターに近いかもしれません。

安田:ちょっと余談でしたが。今会社の経営や社員のマネージメントの仕方などが変わってきていろいろなバリエーションをつけながら適正な組織運営をみんなで心がけているから成り立っているように思います。

堀川:最近パチンコの仕事が増えてきて、徐々に制作会社も原画マンも意識が変わってきたように思います。ひと昔前だったら単価が少しくらい高くてもパチンコの仕事を敬遠する制作会社やアニメーターが多かった。それは、彼らがどの様に仕事を選んでいるか、ということにかかってくるんですが、アニメーターはやはり「作画で評価されたい」「ドラマ性のあるものを、映画を作りたい」という志向が強いので、それが実現できる作品を選んで制作現場を移動します。流動性がすごく強いんです。さっきおっしゃったように、大企業が親会社の制作会社なら、アニメーターも社員にしてもらえる、という考え方もあると思います。ある程度ベテランになって「そろそろ会社に所属して安定したい」という人には、在籍する制作会社の仕事をやりながら、会社のラインに余裕があるときには自分のやりたい作品を請けるという選択肢もできたというべきなんでしょうか。

ほとんどのアニメーターは社員ではないので、全員そろって朝10時から仕事をする、そういう会社は作れない。富山本社のスタッフのように、みんな一斉に仕事をして、夕方5時の宅配便に全員が原画、動画の上がりを載せてくれるのは、制作の管理コスト的にものすごく助かるんです。朝から深夜まで、バラバラの時間と場所で仕事をしているフリーの原画マン一人ひとりに集配業務を対応させるのは、その管理だけでものすごくコストがかかります。みんな一斉に、決まった場所で、決まった時間に仕事をし、それを少人数で管理するシステムを作ることで、抑えられたコストをアニメーターに還元できるということをなんとか成功例として示したい、というのがウチの目指している方法です。大勢のフリーの原画マンを作品のプロジェクトごとに集めるやり方では、その方法を浸透させるのが非常に難しいのがこの業界なんです。アニメーターからの協力がなければ単価が上げられないんだということは、説明しても先ず実感してもらえません。協力したことで自分たちに還元されたと実感してもらうまでには短期間では無理なんです。何年間も一緒にそういう体制の下で作品づくりをやって、制作会社として強い制作基盤を構築していく中で、それが制作現場に還元されるというようなものなので、現状の、作品ごとに「ワッと集まってワッと解散」というプロジェクト制だと、いつまで経っても無駄な管理コストをアニメーターに還元できないな、という思いはありますね。企業とクリエイターの良い依存関係、協力関係を実現できないかと思っているんですが。

安田 猛氏

プロフィール

株式会社KADOKAWAの常務取締役として実写、アニメ、ゲームなど映像系コンテンツを統括。また株式会社プロダクション・エースの代表取締役会長、株式会社ドコモ・アニメストア代表取締役社長のほか、株式会社角川大映スタジオ取締役、株式会社キャラアニ取締役、角川メディアハウス株式会社取締役、グロービジョン株式会社取締役などを兼任している

P.A.WORKS制作作品では『Another』(2012年)で企画、プロデューサー、『RDG レッドデータガール』(2013年)で企画、エグゼクティブ・プロデューサーを務める。