P.A.Press
2019.2.1

判断に迷ったときの道標 [堀川]

 東京から富山に戻って越中動画本舗を設立した頃は、田園に囲まれたこの地でTVシリーズ・アニメーションを制作することが目標でした。そのために毎年アニメーターを募集して一から育てたんですね。僕個人は、少人数だったあの頃の社風も牧歌的で好きなんだけど、気が付けばどんどん人が増えて会社も責任も大きくなり、部署が別れ、立派な組織図ができると、組織全体の目標を方向付けて管理運営する必要に迫られまして。所謂マネジメントってやつですね。僕とはあまり縁の無い言葉だと思っていたんだけどなあ。僕には『ビジネス』より『現場』という言葉の方が体に染みついている。さりとて、目標達成や現場の改善に組織力を活かすなら、規模相応に自ら変わらなきゃ駄目なのだろうな、と考えてはいたんですよ。具体的なビジョンを示して欲しいという声が社内からも聞こえてくるようになり、昨年半年くらい散歩の道々考えたことを整理しました。

 

 そんなこんなで、これでもかっ!て言うくらい次々に色んなことがあって、僕自身ブレない判断の拠り所を自分の中に求めたんだと思います。そこから、アニメーション作品を作り続けるためにP.A.WORKSが何を大切にして、何を実現しようとしてきたかを考えて、シンプルな言葉にしたかった。これが企業理念というものになるのでしょう。

 企業理念はP.A.WORKSで働く社員にとって行動の指針となるものだから、僕自身がそうであるように、彼らが判断に迷ったときにはいつでもここに立ち返って、自身が進むべき方向を示唆してくれる道標になって欲しい。

 これまで18年間のP.A.WORKSの創作活動を振り返って、「こんなことが出来たらな、これがミッションじゃないか」、と感じていることに焦点を絞りました。

・人々の未来を照らす物語の創作

・社会の課題を照らし出す物語の創作

・多くのクリエイターが集い、未来に希望を持って働ける環境をつくる

 ここに挙げた3つについて考えたことを、昨年11月に発行した社内報『白ヤギからの手紙』第1号に掲載しました。

『人々の未来を照らす物語の創作』

 P.A.WORKSは観た人の心に長く残る作品、「明日も頑張ろう」と思える作品づくりを心掛けてきました。おかげさまで、視聴者のみなさまからも「元気が貰えた」「人生が変わった」といった嬉しい感想を沢山頂けます。これは作品が担うことのできる素晴らしい力だと思います。作品に触れたことをキッカケに、人々が未来の肯定的な物語を思い描けるような作品をこれからも作り続けたいと思います。また、一過性のエンターテインメント作品にとどまらず、「ずっと大切にしたい」と思える作品、人々の現実の生活に光を灯し続ける作品でありたいと考えています。

 2015年に放映されたTVアニメーション【SHIROBAKO】の最終回で、主人公の宮森あおいが挨拶をします。その挨拶にP.A.WORKSがアニメーションの創作活動を通して目指すことを込めたいと思い、こんな台詞の参考案を書きました。

 「100年前に創作の神様がアニメーションという新しい表現の蝋燭に灯した炎は、ずっと制作現場で先輩から私たちに受け継がれてきました。50年描き続けている大ベテランの先輩から新人に技術は継承されて、才能を持つ一人ひとりが最高の仕事をすることで、わたしたちの蝋燭は今も輝いています。これからも、この火が消えないよう、みんなで長い長い蝋燭を作りましょう。その中心には、太く撚った夢と情熱の芯を真っ直ぐに立てましょう。そして、わたしたちが培った技術と情熱を込めて作る物語が、アニメーションに携わる全てのスタッフと、世界中の人々の明日を照らす光となりますように。」

『社会の課題を照らし出す物語の創作』

 社会的なテーマを内包したフィクションでは、魅力のあるキャラクターの物語を通して、改めて社会の課題と向き合う機会を拡げます。また現代ではインターネットの配信で、世界中の人々が同時に作品を視聴することができます。エンターテインメント作品が現代社会の抱える課題を独自の視点で描くことで、世界中の人々に関心を持ってもらえると考えます。創作活動を通してフィクションと現実を繋ぎ、私たちにできる社会貢献の方法を模索したいと思います。その試みは、社会の未来を照らすささやかな希望でありたいと考えています。

『多くのクリエイターが集い、未来に希望を持って働ける環境をつくる』

 私たちが主に制作するTVシリーズや劇場用の商業アニメーションでは、とても多くのクリエイターが制作に携わっています。そして、これらの創作活動を継続するために、3つの面を成り立たせています。1つは、物語と音と映像を合わせた総合芸術の創作という面。1つは、創作物を量産して対価を得る商品製造業の面。もう一つは、エンターテインメントを提供するサービス業の面です。クリエイターの創作モチベーションを刺激する芸術性と、商業価値を生むエンターテインメント性が併存する作品を、高品質で量産できることが求められます。作品に対価を支払う価値が認められることで、私たちは長期に亘って創作活動を継続することができます。そのことで得た利益をもとに、クリエイターが安心して技能の探究と研鑽を続けられる環境を整え、次の世代を担う人材を育成します。これらは活動を共にする人々が、共通の目的と計画性を持って組織的に取り組むことでようやく実現可能になることです。P.A.WORKSはその実現に取り組み、多くのクリエイターが将来に希望を持って働くことができる環境づくりを目指します。

 当初はこれら3つを企業理念に列記しようとも考えたけれど、1つにまとめた方が社内に浸透すると思い、数か月間練り直してシンプルな一文にまとめました。

企業理念

未来を照らす、あかりをつくる。

 社内報ではこれに基本方針、行動理念と続くんだけど、長くなるので割愛します。

 社員から「P.A.WORKSのブランディングってどういうことですか?」、と訊かれることがあります。この企業理念と、アニメーションファンやステークホルダーから見た、P.A.WORKSの企業イメージを一致させることじゃないか、と答えています。額装して会社の壁に掲げておくだけの理想は好かんのです。僕らの目指す創作活動の方向が、外部からもそう見えているかをいつも問うことじゃないかしらん。

 ようやく辿り着いたこの企業理念の実現にむけて、今度は3年後の目標-ビジョンを設定しました。いよいよ会社らしくなってきたぞ。

それは別の機会に。

堀川憲司

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