P.A.養成所のこと。若手アニメーターの育成のこと。 【中編】 [堀川]

2019.1.25

『若手を育成するのは誰? カリキュラムを作ったほうが効率的じゃないか』

 P.A.WORKSでは、原画マンになってからしばらくの期間、先輩原画マンについて面倒を見てもらいます。成果物の原画を先輩に見てもらい、指導を受けるというやり方で、アニメーション業界では古くからこの方法が一般的でした。

 原画を描き始めたばかりのころは、仕事を任されても描けない。ひょっとすると、逆に、考えるべき大切なことが解らなくて、悩まず若さと勢いでヒョイヒョイ描けてしまうかもしれない。フリーランスの原画マンは個人事業主です。仕上げた成果物で自分の技能が評価されるのだから懸命に努力する。

 「この人にはもう仕事振らないでくれる? 新人なんだから下手なのはいい。仕事の姿勢に腹が立ちます。」

 初めていっしょに仕事をする演出や作画監督からそんな風に嫌われたら、クライアントを1つ失う職業です。

 初心者原画マンは、動画マンだった頃に吸収したノウハウをフル活用して描く。分らない技術を1つ1つ探究する余裕は、ノルマの厳しいTVシリーズでは持てません。参考映像を探したり、相談できる人が周りにいれば訊ねます。そうやってもがいて仕上げたところで、演出や作画監督が求める合格基準を最初からパスするものはまず描けません。演出と作画監督が、その未完成な成果物に時間と忍耐力を極限まで投入して修正を加え、放送可能な品質まで持ち上げている現状があります。

 あるいは時間に少し余裕があれば、原画に修正指示を出して、原画の担当者に再作業を依頼します。求められる要求に応えるためのリテーク(再作業)工程が、若手の育成を兼ねているんですね。現実には余裕のあるスケジュールを確保することが年々厳しくなっています。その原因と改善のための施策については、またいずれ触れたいと思います。

 超短期スケジュールの元では、原画マンは担当した仕事をフィニッシュまで責任を持って描ききることもできず、原画の工程は一原と二原に細分化されるのが最近のスタンダートな作り方になりつつあります。そんな混沌とした工程の制作環境で、若手アニメーターが技能を学ぶのはOJTだけでは難しい。汎用性のある原画の基礎知識や技能を体系的に修得する効率的な学習方法を導入してみてはどうでしょう。

 改善策として、原画初心者が仕事を請ける前に、実践的な基礎カリキュラムを修得する期間をとったらどうか。最近のTVシリーズアニメーションの作画表現に即したものです。

 歴史のある会社なら、先輩から後輩へ継承されてきた独自のノウハウ…描くときの知恵や工夫、ルールのようなものが継承されているような気がする。P.A.WORKSでも、今までの作品制作で培ったノウハウを整理して、2年間かけてカリキュラムを作成しました。これは、2018年の春にP.A.養成所を開所するまでにどうしても必要だ、というタイムリミットがなければ、テキスト化するにはもっと時間がかかったんじゃないかな。

 吉原部長を中心に、養成所で講師を務める現役の動画検査、演出、作画監督、美術デザインのスタッフが、2年間毎週1回ミーティングを重ねてカリキュラムの内容を検討していました。このミーティングは現在も続けられています。僕も何度かそのミーティングに立ち会い、講義のプレゼンを覗いてみたことがあります。

ミーティングの様子


 そもそも、アニメーターは普段人前に立って話す機会がそんなにありません。黙々と一日中机に向かって絵を描いている、描いていたい人たちがほとんどです。人に教えるのも話すのも好きで、その上達者な大塚康生さんのような教育者は、この業界では稀有な存在です。いつも控えめに話す彼や彼女たちが必要に迫られて、真摯に向き合ってカリキュラム作成に取り組んでくれている姿には頭がさがります。

 先日行われたオープンキャンパスでは、彼らの講師ぶりも随分慣れてきたものだと感心したのでした。やっぱりこういうことは場数を踏むことなんだな。アニメーターもどんどん人前で話す機会を作るといい。

 若手を指導する立場のスタッフが、人に理解してもらうための話術を身に付けていくことは、彼らの作品づくりの場でも知らず知らずのうちに活かされることでしょうね。今後もこの講義の成果を見ながら講師陣がミーティングを重ねて、P.A.養成所カリキュラムの改訂版を毎年作ることになっています。


長年の経験を活かして作成されたオリジナルのカリキュラム



 P.A.WORKSの社員原画マンには、継続学習のための定例ミーティングがあります。ここでの学習の機会を通してP.A.WORKSの作画が大切にしてきた考え方や技能が、先輩から次の世代へ継承されていくんだという微笑ましい希望を、年寄の僕にも感じさせてくれます。P.A.WORKSで育った若手原画マンのレベルが何年もかけて底上げされていけば、僕らはいずれ貪欲にもっと上の作画表現を目指せるんじゃないかってね。

堀川憲司

【後編】に続く