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  No.09「泣かずに済む」

堀川:次にデジタル化が演出処理にもたらしたものについて。演出処理業務自体はデジタル化されていないんだけど。デジタル化は末端セクションから導入されたでしょ? 効果が目に見えて数値に出るセクションだからだね。作画や演出業務はデジタル化から取り残された形になったけれど、他セクションのデジタル化が演出業務にもたらしたものってどんなことかな? 恩恵を受けた部分、煩雑になってさらに大変になった部分でも。
橘:画面作りが劇的に変化しましたよね。フィルムの撮影では出来なかったことがデジタルでできるようになったじゃないですか。フィルムではオプチカル合成(*1)を使わなければ出来なかった部分、今までは絵コンテ段階で絶対に取らなかった正面フォローをやるようになったりとか、3D背景なんて最たるものだし。
堀川:表現できる幅が広くなったね。俺は画面をいくらでも暗く設計できるようになったなと思った。ハレーション(*2)を気にしなくてもいいじゃない? セル傷とか。
橘:(笑)それはありますね。
堀川:昔なら宇宙背景にも青や緑色を使用したでしょ? 真っ黒にするとセル検査や撮影のストレスもすごいからね。
橘:確かにセルゴミはありますね。すっかり忘れていましたけど、V編のときにプチプチ潰していましたね。
堀川:デジタルではそのリテークの心配が無くなって、どんどん画面が暗く設計されていくなと思って。あと、色に対するこだわりね。先日の監督の話、
「コンポジット後に最終追い込みをすると云うことで作っていかないともうだめかも。でも、各セクションのこだわりって云うのは今まで通りあるからね」(神山監督語録No.237)
今までは色彩設計や背景でも色を追い込んでいたんだけれども、今はコンポジットの段階で如何様にも変えられてしまうでしょう? そこに至る制作工程での色の追い込みの有効性がどんどん小さくなっていくのかな? 演出の色に対する追い込みはデジタル化されてからどう?
橘:確かにそれはもっと追い込めるようになったって云うのはありますね。攻殻に関しては美術は本当にスペシャルなものが上がってくるので特に気にならなかったんですけど、セル時代のTVシリーズをやっていたときには、何とかしたいけれどなんともならずに泣いていた部分もデジタルになってからはコンポジット後の調整で泣かずに済むようになった。あとはカットごとに背景の明度を微妙に調整してくる。そう云うところの合わせも実は演出が撮出し時に指示する以上に撮影さんが細かく調整しているんですよね。より演出のイメージに近い絵が作られてくる。そう云う意味でデジタルの恩恵はあります。

(*1)画面上の合成で、撮影ではなく現像所に依頼するもの。撮影は手間、現像は高価、失敗する率も高いので通常のTVシリーズで使うことはまず無かった。

(*2)撮影で使用するライトが乱反射を起こすために画面の一部が光る。特にセルに付いた小さな傷が原因。もちろんリテーク。

   
   
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