P.A.Press
2019.3.13

『明日に向かって、えくそだすっ!』【後編】[堀川]

 三月ですなあ。毎年この季節になると『卒業写真』が何処からか聴こえてきます。僕が松任谷由実の曲に惹かれたのは高校生からでして。当時薬師丸ひろ子のファンだった僕は、大林宣彦監督の【ねらわれた学園】を観て、キラキラと滲む木漏れ日に包まれる乳母車と、風車の美しい映像に重ねて流れる『守ってあげたい』にあっさりノックアウトされてしまったのでした。さらに衝撃的なことに、峰岸徹が宇宙だったんですね! 何を言っているのか映画を観た方ならお解りいただけるかと思いますが、この2つのシーンは40年近くたった今も忘れられないお気に入りです。

そんな訳で『3年間のビジョンを、DANG ! DANG! D-DANG!と。』

東京P-10近くの梅の花が咲きました
東京P-10スタジオ近くの梅の花が咲きました

 問題山積の現状と理念とを繋ぐ道程に掲げるビジョンは何か?

 制作現場が抱える課題をギュッと凝縮した図から目を逸らさずにじっと何日も見つめていると、真っ当な制作環境とは言えない悔しさをバネにして、『強い制作現場にしたい!』という闘志が沸々と湧いてきませんか?

 僕の制作経験を振り返ってみると、制作のモチベーションの6割は創作の高揚感で、残りの4割は屈辱や怒りの力です。

『真っ当な作り方ができる強い制作現場にする。』

これ、ビジョンにどうでしょう?

あ、今「ふ~ん、それで? もうちょっと具体的に言ってよね」って思いましたね?

 いいんです。そんな忌憚きたんの無い言葉、好きな訳じゃないけどいいんです。僕が社員だったらやっぱり壁に貼りだされたビジョンを見て、『強い』って何?と思いますからね。

 ごもっとも。P.A.WORKSの制作現場の課題を改善する『強さ』の指標をクリエイション部の内製率としました。内製率の向上は社内に向けた最優先の課題です。

 社外に向けては、アニメーション作品のファンやクライアントの信頼を得られるように、P.A.WORKSのブランディングデザインに注力しようと決めました。

 そしてようやく、昨年10月に行った全社員向け経営方針説明会ではこれらをまとめて、3ヵ年のビジョンとして以下の3つをDANG ! DANG! D-DANG!と揚げたのです。

『強い制作現場を持つ』

アニメーション業界が当面の間クリエイター人口に対して作品需要過多のままで、業界の人材不足は解消される見通しが立っておらず、クオリティやスケジュールの管理が困難になり続けている現状でも、P.A.WORKSは真っ当な作り方で、高い品質が評価される作品を作り続けられる強い制作現場を持つ会社になる。 P.A.WORKSで働くスタッフのモチベーションが上がり、大変な創作活動の中にも喜びを体感できる会社になる。

『クリエイション部の内製を強化する』

強い制作会社になる為に、クリエイション部の人材採用と育成に注力して内製を強化する。具体的には、3年間でプロパー原画マン50人と作画監督と演出で8チームの班体制が組めるようにする。3DCG部は全て内製でできるようにする。制作部はプリプロダクションの管理を強化し、クリエイション部と連携してTVシリーズ1本に10週間の作画期間を確保できるようにする。

P.A.WORKSのブランディングデザイン』

P.A.WORKSが創作する作品が国内外でブランドだと言われるようになる。実現しようとする理念と創作活動に共感し、賛同してもらえる企業になる。その評価がブランド力となり、作品の制作費向上に繋がる。結果、財務基盤を強化して報酬に還元させることができる。アニメーション業界の産業動向に対して、中長期視点の挑戦的戦略を立てるための力のある生産基盤を構築する。

 正直に言いますと、1年位前までは制作会社の課題は『自立した制作会社』になることじゃないかと思い込んでいました。でもですね、考えれば考えるほどその前に闘う武器を身に付けなくてはビジョンも夢物語になると慎重になりまして。昨年春に制作現場から距離を置いて、富山で毎朝「アニメーション制作会社の経営者としてこれからやるべきことは何かしらん?」と越丸に問い続けながら散歩して、考えをまとめるのに5ヶ月間もかかりました。長かった。ちなみに、越丸からヒントが示唆されることは1度もありませんでしたが、癒しと朝型の規則正しい生活習慣をもたらしてくれました。家人も「こんなに朝型の生活に変わるとは思わなかった」と驚いておりまして。ヤギ飼育の許可が下りる日もそんなに遠くないと思うのです。布石着々。

 P.A.WORKSでは部門長会議が毎月1回開かれます。その名の通り、各部署の部長が出席します。これまで数回に分けてブログで書いた企業理念とビジョンの叩き台になるものを、経営方針説明会より2ヶ月遡った8月8日の部門長会議で提示しまして。

 経営者が担う役割は、会社の将来の物語を描くことが一番大きな仕事。且つ、社員が共有できる、解り易くて頑張ろうと思える物語にすること。行きつく結果はわからないですよ。リスクもいっぱい待ち受けている。それでも目標を目指す冒険譚に組織全員で出発することだと思う訳で。

 P.A.WORKSの次世代を担う若者たちは、今は目の前の制作に追われていても、何れまた次の世代をけん引する時が来ると思うのです。その時の参考に、これから起こるであろう制作現場の七転八倒の備忘録をここに残しておきます。

 「こんな本があるんですよ」と財務部長の仲村が『戦略マップ』という本を教えてくれたのでポチリまして。このフレームワークを参考に制作会社の抱えている課題をもう一度分解して、財務、顧客、内部プロセス、企業の長期価値創造の4つの視点で課題を再構築して戦略の叩き台を作りました。

 経営者が自分は経営に無知であるというのはとても恥ずかしいことですが、とりあえずカタカナが多い最新の経営書は避けて、数十年生き延びている書籍を繰り返し読んで基礎を掴んだほうが良いように思いました。学生ではないので座学にはなりません。経験に照らし合わせて「なるほどねえ…」「そうだよねえ…」と思えることもいっぱいあります。『生産性』『ガバナンス』『働き方改革』といったものも、何冊か読んだうちから1冊を施策の参考に選んで、制作現場の実態に合うようにアレンジしてトライアルを繰り返してみます。あとは教えてくれる関係者の言葉に興味を持って耳を傾けることですね。

 そんな訳で、ビジョンを達成する戦略を、財務視点、クリエイション部の視点、制作部の視点、ブランディングデザインの視点に分けて、2ヶ月かけて具体的な計画に落とし込むことにしました。各部署のチーフと週1回の打合せを重ねて、目標設定と戦略策定とアクションプランを立て、10月の経営方針説明会に間に合わせることにしました。その施策はまた別の機会に記録しておこうと思います。

 アニメーション制作の零細企業は、ここ数年大きく揺れる外部環境にもまれて急速な変化を強いられていますが、この先予想される更なる大波に備えて振り落とされないよう、急がば廻れでござる!

堀川憲司

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