P.A.Press
2005.10.29

第4回 攻殻機動隊S.A.Cスタッフインタビュー/Stance Stance Stance「作品に愛を込める人たちと」 橘 正紀(演出)

後藤隆幸   キャラクターデザイン・総作画監督
関口可奈味  作画監督
中村 悟    作画監督 
古川尚哉   レイアウト作画監督
橘 正紀    演 出
河野利幸    演 出
吉原正行   演 出
遠藤 誠    3D監督
田中宏侍   撮影監督

「一番大変なのはレイアウトの描き直し」

堀川:このインタビューの目的は橘君の紹介が1つ。それから「神山監督語録」からピックアップした演出に関わることを中心に演出に話を聞いてみたかった。それをポテンシャルの高い現場を作るときに演出ポジションをどう考えていけばいいのか、演出にとって理想の現場環境ってどう云うものかを考える参考にさせてもらいたい。それともう1つ、橘君自身が攻殻SSSに参加した目的、スタンスをもう一度考えるきっかけにしてもらえればと思います。

そもそも演出業務がどんなものなのか理解されていないという発言があって、僕も取材を受けてアニメーションの制作工程を説明するときにフローチャートを渡すんだけど、フローチャートには「監督」とか「演出」セクションは書かれていないのね、それで「演出は何をする人ですか?」って聞かれる。今日は橘君のADパートを担当する新人制作本多君が、演出業務について理解を深めるものになればとも思います。ではまず、

「演出の仕事はキャパオーバー」(神山監督語録No.53)

アニメーション業界の演出業務の現状から。橘君の演出経験は6年くらい?

橘:そうですね、24歳くらいからだから6年くらいですね。

堀川:30になったんだっけ?

橘:なりましたね。23歳の9月にBeeTrainで堀川さんと話をしたと思うんですよ。翌年の2月で24だから。

堀川:セルはあまり経験していない?

橘:東映で演出助手をやっていたころからBeeTrainの作品の演出までがセルだったから。

堀川:じゃあ、セルとデジタルの経験は半々くらいかな。今どう云う部分で演出業務は大変なのかな? 雑感でいいので。

橘:そうですね、こちらで作画を修正する部分が非常に多いと云うのがありますね。レイアウトのチェック段階では仕込みが多くなるので演出の作業量は増えていますね。結局レイアウトの段階で画面を作り込むために、演出が絵を描いているって云うのが一番大きいんじゃないのかなと思いますね。だから逆に僕は絵を描かない演出がどう云う処理をしているのか全く分からないんです。作監さんにお願いしているとは思うんですが。

堀川:レイアウトは演出チェックの段階で、違うなと思ったらどんどん描き直しちゃう方なのね。

橘:上から部分的に修正乗せたり全部描き直して「こちらのレイアウトでお願いします」って云う修正でやっていますね。

堀川:その描き直す負荷が非常に大きいと。

橘:攻殻スペシャルのレイアウトは3Dでガイドラインを出力したので、一から描き直す作業が無かった分かなりスムーズに行きました。あと、キャラクターの芝居設計の部分でも描いて指示しますね。やっぱり一番大変なのはレイアウトの描き直しですね。

「観察力と執着心が足りない」

堀川:確かに今レイアウトが描けないなと思うんだけど、演出の要求に応えられるものが上がってこない原因は何か、考えるところはある?

橘:観察力の問題があると思うんです。普段生活している中で、例えば建物がどうなっているとか、線路と砂利はどうなっているのかって云うようなものを観察しないで描いちゃっているので、何だかおかしなバランスだったりするんです。ガードレールがやたら低かったり幅が凄く狭かったり。そう云う日常生活の中の感覚的な部分が表現できていないものが多いですね。うーん、雑なのか描けないのか判断に苦しむところがあるんですけど、生活が苦しいから描き飛ばしちゃうのかもしれないですけど、なんでしょう、絵に対して執着心を持って描くとか、どこかでそう云う訓練をしないといけないのかなと云う気はしますね。攻殻SSSでは新人さんも何人か原画で参加していますけど、色々表現しようって云う気持ちは伝わってきますが、処理とか素材を増やす方向には行くんですけど、フォルムをキッチリ作るとか、そう云うところが弱いんですよね。人物ならデッサンをしっかりとるとか。たとえば最近の絵の傾向として、デザインの線は少ないけど立体感のある絵も増えてきているじゃないですか。ああいう感じの処理がまだ狙えないと云うか、フォルムで質感を見せるとか、そう云うところの追い込みが出来ていないなと云うのはありますね。参考資料を渡して原画をお願いしたときも、もうちょっと個人的に資料を探して描いてもらえれば・・・

堀川:(笑)

橘:演出が探さないで済むのになと云うのはあるんですけどね。

堀川:それは今に始まったことじゃなくて昔から言われているよね。時間が無いからなのかこだわりが無いからなのか。そう云うものだと思っているのか。

橘:そうなんです。もっとキッチリ描こうと思ったら調べて描くだろうに、と云う気もするんですけど。調べないままに描いちゃうからおかしい。おかしいなと思って演出が資料を調べて描き直したり、資料を作監に渡して描いてもらうことが多いですね。資料を探すのが大変ですね。

堀川:その積み重ねで演出は膨大な知識を獲得するんだね?

橘:ええそうですね(笑)

「描ける人はちゃんと聞いている」

堀川:じゃあ、ついでに聞いちゃうけど、演出の立場からアニメーターに求めたいことは他にはある? 特に作打ち(作画打ち合わせ)だよね。作打ちで意識しているポイントはある? 何度打ち合わせをしても、上がってきたものを見ると何故かこれは全く伝わらないって云う経験があると思うんだよね。

橘:そうですね、『また言ったこと聞いていないよ』って。

堀川:(笑)

橘:作打ちのときにはカット内で必要なアクションとか何を表現したいかと云うことを話します。誰かの台詞を受けてキャラクターの顔のアップになったら、ここはこのキャラクターはこう感じているから含みのある表情を作ってくださいとか、そう云うところで話をするのであまり細かく突っ込んで打ち合わせはしないですね。必要なことは大体絵コンテに書いてあるじゃないですか。その中で、絵のタッチで必要になる部分とか、絵コンテに描かれていない芝居を補足していますね。結局上がってきたものの画面の納まりでまたニュアンスが変わる部分があるので、そう云うところはレイアウトが上がった段階で更に追い込んでいきます。

堀川:伝わらないことの傾向はある? 例えばね、攻殻の場合だと、3Dの車などはレイアウトの段階でモーションのラフまで描いてタイムシートもつけてくださいって云う作打ちをするよね? だけど、見ているとまずそうは上がってこないよね? 

橘:確かに3Dでは本当にそれはありますね。

堀川:不思議、謎と言ってもいいくらい。

橘:ええ、最初の内はそう思っていたんですけど、結局それも全部こちらで描き直しちゃうことが多かったので、それはもう麻痺して考えなくなっていましたね(笑)。こちらで描いちゃう、みたいな。

堀川:上がってきたものは描き直すことが前提の下敷きだって云う感覚なのかな?

橘:いや、上手い人のレイアウトは全く直さなくていいですし、そう云う絵を描ける人はちゃんと打ち合わせしたことを聞いてくれる人ばかりなので。

堀川:そうなんだよね、描ける人ってもう作打ちのときの質問内容が全然違うんだよ。その答えで演出の力量が試されるから答える方も緊張させるんだよね。作打ちを聞いていてもニヤリとしちゃういい緊張感があるんだよ。

橘:そうですね、だから心配しなくてもいい方は、上がりに作打ちした情報が全部詰まっていて、そこからひと盛りふた盛りしてあるんです。結局経験になってくるんですかね・・・分からないですね、どうして抜け落ちているのか本当にそこは(笑)。

堀川:でもそれが最近の傾向だとは思わないんだよね。大勢はずっと昔からそうだったと思うよ。

橘:レイアウト作業では背景原図を描いてキャラクターの納まりまで決め込めばいい、その後芝居を決め込んでタイムシートを打つのは原画のとき、みたいに自分の中のルーチンワークとして決めちゃっているから打ち合わせは聞き流されるのかな。それと、僕も監督との演出処理打ちで時々一瞬聞き逃したりすることがあるんですよね。『このカットの処理どうしよう、これどう云うふうにBOOK分けしよう』とか、絵コンテを眺めていてフッと意識が別のところに入っちゃうと聞き逃すんですよね。

堀川:なるほど、そうか、演出は話術が必要だね。強調とか繰り返しとか、聞き手の記憶に話のポイントを引っ掛けるための間とか。それは大変な技術だわ。うーん、確かに僕も原画をやって欲しいって云う一心で原画マンと話をするときは、自分に都合の悪い答えは全然聞こえていないらしいんだよね、たまに指摘されるけど。

「正攻法で攻めすぎている」

堀川:I.Gの作品はTVシリーズでも演出処理が大変だと思うけど、演出を職業として生計を立てるのに、通常のTVシリーズだったらコンスタントに月1本の演出処理と絵コンテはやらないと生計が立てられない。1本300カットのTVシリーズで、単純に10日でレイアウトチェック、10日で原画チェック、10日で絵コンテを書くとしたら、1日30カットのレイアウトチェック、1日30カットの原画チェック、1日30カットの絵コンテが書けるか? このクオリティーを求められるとこれはかなりハードなんだよね。

橘:ハードですね。

堀川:TV攻殻では考えられないよね。攻殻は倍のスケジュールがあったとしても、コンスタントにレイアウト1日15カット、原画1日15カットのチェック、絵コンテ20日で1本は誰も出来ていないよ。その物量をこなすことをハードにしている原因は何なんだろう? キャパオーバーの一番の原因になっている作画の描き直しだけじゃないと思うんだよ。演出も昔のように師匠である監督から物量をこなすことをシステマチックに訓練される機会がなくなったし、求められているクオリティーは上がっている、後藤(隆幸)さんがインタビューで言われていたけど、I.G作品はTVシリーズにしても昔のTVシリーズのように原画が量産できるようには絵コンテ段階では計算されていない、それが原画マンの生計を苦しくすると。そういう部分で演出処理も物量をこなせない?

橘:確かにI.G作品はカメラの置き方もリアルな視点を求めるじゃないですか? 街なかのロケーションでもカメラで逃げて楽なアングルをチョイスしないで正攻法で攻めすぎているって云うのはありますね。攻殻はやっぱりああいう作品なので、それこそアングルは人の目線で取るって云うところでもどんどんレイアウトが大変になっていますね。結局量産型を目指す会社のTVシリーズでは、絵コンテ段階でもうちょっと楽に描ける絵作りになっているんですよね。そう云う意味では最近のアニメは画面の情報量がものすごく増えているし、キャラクターも繊細になってる。演出方法とか絵の見せ方もマンガ的なもではなくなってきている。フィルムノアール(*1)的なものも増えたり、もっとリアルに落とし込むために画力を必要とするショットが多くなって、かなり作画に負担をかけている部分がありますよね。

堀川:どんどん要求されるクオリティーは高くなる。演出は求められるクオリティーとスケジュールと現場の力量の狭間で背負い込む。

(*1)ここでは犯罪や暴力をモチーフにした画面のトーンや絵のリアリティーで緊張感を持たせる手法の作品と云う意味合いです。

「攻殻が求めているクオリティーありき」

「演出スタイルは制作状況が生み出すもの」(神山監督語録No.17)

堀川:その言葉はすごく痛感するところだけれど、逆の言い方をすれば、監督や演出には現場の力量に応じた演出スタイルにシフトする能力が求められるってことでもあるじゃない。それが乖離すると現場が破綻しちゃうからね。攻殻TVシリーズではそれを意識したことがある?

橘:攻殻の場合は逆に「攻殻ありき」で始まっていたじゃないですか。クオリティーを求められている。原画さんも描ける人を集めると云う前提のもとに絵コンテの作業をしていたので、そう云う意味ではたぶん現場の力量を見ながらと云うよりも、作品が求めているクオリティーありきで作っていたって云うのはあります。

堀川:そうだよねぇ。
よく「絵コンテをどうしたら早く上げさせられるんですか?」って聞かれるんだよ。俺はね、上がらない絵コンテを、俺が何かしたからといって早く上げさせられたことは無いって答えるんだ。絵コンテがそのタイミングで上がらないと現場はどうなるかって云うシミュレーションはできても。監督や演出には足元の現場の力量に応じた戦術的な絵コンテを上げる制作的な対応力も求められるんだよ。その責任も負っていると思うんだ。その協調性が無いと無自覚に現場を破壊して渡り歩くことになる。でも、それと同時に制作は、そう云う絵コンテを受け取ったら、現場に力が無いがために監督や演出にシフトチェンジを強いてしまったんだと云うことは読み取らなくちゃいけない。どんな過酷な状況でも演出はフィルムにするよ。演出が途中で逃げたって云う話を俺は聞いたことが無い。だけど、自分の力量不足が演出に何を強いたかくらいは理解なくちゃいけないと思うよ。今の自分には監督や演出が求めているものを作る戦力が用意できないんだ、それを言葉にしないまでも悔しいと思ってバネにした方がいい。どうも諦めなのか甘えなのか麻痺しているような気はする。

橘:そうですね。とりあえずスケジュールを間に合わせるために手が早くて仕事が荒い原画マンが投入されても、演出チェックで止まるよって云う制作との攻防はありますね。

堀川:そこに先を見こした戦略があればね、ここで戦力を温存するんだって云うさ、スタッフ間のコンセンサスは取れると思うの。立直しを仕掛けても急には効果が出ないから。転がりだしたTVシリーズでスケジュールを立直せるのはかなり力のあるチームだよ。荒治療だから信頼関係と協調性が必要だしね。

橘:庵野秀明さんが監督する回がそうで、ナディアだと南の島編とか、エヴァでもダイアログだけで進めるところがありますね。ラストに向けて体力を温存するために現場の体力を計算して作っているって云うのはある意味凄いなと思いますね。

堀川:うーん、庵野さんの場合はスケジュールを食いつぶすのも庵野さん、トリッキーな演出で乗り切るのも庵野さん(笑)。

橘:(笑)

堀川:全てが潤沢でスマートに進む現場なんて無いよ。演出も制作も品質と全体のスケジュール管理を負わなきゃいけないセクションなので、決められたスケジュールで処理しなければいけない物量だって頭では理解できる。それをただ演出に業務だから宜しくって言うのでは無くて、人対人なのでね、相手に自分の作品作りの姿勢がどう伝わるかだと思うよ、言葉ではなくね。演出と制作が対立していては絶対にいいものは出来ない。制作が仕掛けていることが見えているのも、全体を通して見ている演出だと思うよ。

「やった! 来た! シメシメ」

堀川:アニメーションが大勢のスタッフで作り上げる生産システムを組んでいる以上、スタッフを統轄して作品の責任を取る人間が必要なんだ。その意識を演出は持っていると思うのね。最終的にはプロデューサーなり監督だけれど、例えばTVシリーズでその話数のクオリティーの責任を負う意識を演出は持っている。だから、ラッシュチェックのときに監督や音響監督の前で一番緊張しているのはたぶん演出でしょう?

橘:そうですね(笑)

堀川:失敗しているところがあれば演出が一番責任を感じているんだ。でも、上手くいっていると「ここ原画誰?」ってところにまず目がいく。

橘:(笑)

堀川:話がおもしろければ注目されるのはライターだったり。じゃあ橘君は何処に喜びを見出してずっと演出を続けているのか?

橘:レイアウトチェックのときに動きの指示をある程度入れるんですけど、その動きがいろんな人の手を経てフィルムになったときに、自分のつけたタイミングで上手くいっていたら・・・

堀川:それはアニメーターの喜びじゃないか?(笑・・・・)

橘:実を言うと一番楽しいのは線撮のときに・・・(ずっと堀川が笑っていて聞き取れません。すみませんでした)編集が上手くいって綺麗に動きが繋がると「やった!」と思うんですよ。テンポやリズムとか話の繋ぎ方とか。
トータルで演出はずっと携わっているわけじゃないですか、シナリオ貰ったときから完パケるまで。絵を作るときには声優さんの芝居をイメージしながらキャラクターの感情に合わせて表情を作りこんでいくじゃないですか。アフレコ現場で声が吹き込まれたときに、それが自分のイメージと合ったものだったら「やった!」って。さらに声優さんがもうひと盛りして別の含みが出てきてもっと良くなったりとか。やっぱり演出は全体の流れを掴んでいるので、そこでコントロールできますよね。例えば芝居のニュアンスがちょっと違ったときにも各話演出が声優さんにお願いするじゃないですか、それが自分のイメージしていた流れにうまく昇華できたときですね。
あと、その作品の中でも演出家が狙いたいシーンがあるんです、何カットか。ここのシーンで盛り上げたいとか。最終的にダビングで音が付いたところで、そこに向かって盛り上がって、「来たっ!」ってなっていれば、あ、この作品は上手く来たな、「シメシメ」と。

堀川:あざとくは無い程度にこっそり仕掛けたことが利いていたりね。

橘:そうですね。ひょっとしたらあまり伝わらない部分かもしれないですけど、そこまで追い込んでいった苦労は自分が一番知っているわけじゃないですか、そう云うものが上手くいったときですね。
それと画面の追い込みですね。42話(2nd GIG #16「そこにいること」)で、クゼが半島に行ったところは粗い粒子のフィルム的な絵を作りたかった。撮影監督の田中(宏侍)さんと、ああいう画にたどり着くまでのやり取り、その画面を作り上げるまでに何度もトライしてもらって、コンセンサスがあってそこにたどり着けたって云うのもまた作品が出来たときの喜びになります。そう云う1カット1カットの積み重ねで1本の作品が出来たときの達成感みたいなものが、多分続けていける理由なんじゃないかと思うんですけど。

堀川:うん。

「愛を込めて描いてくれる人」

「絵コンテの段階が最高に夢があるんですよ。絵コンテの段階で自分の中で何となく思っているものが最高に理想のフィルムで、もうそこからの現実って云うのは夢の劣化でしか無いから、フィルムは、演出からすればね」(神山監督語録No.225)

堀川:橘君も絵が達者で描きこまれた絵コンテを描くでしょう、そう云うもの? 絵コンテでイメージしていた以上のものをスタッフがファインプレーで見せてくれたりする喜びもあるだろうし。

橘:そうですね、確かに絵コンテを描きながらイメージしているときが一番楽しい・・・・、イメージが浮かんだときは楽しいんですけどね、思いつかないときは苦痛なだけ(笑)。でもそれはしょうがないと思うんですよね。絵コンテでイメージしているときが一番自分の中ではいいイメージを持っている。ヒッチコックも言ってたじゃないですか、堀川さんに借りた本(「ヒッチコック映画術」トリュフォー)で、自分の映画は構想を思いついたときで完成しているって。
そう云う意味では2nd GIGの1話(再起動)は狙い通りで、そこから更に良くなっていった作品でしたね。ちょうど9課がビルに突入していくあたりで、最後にモトコがビルを飛び降りて茅葺の執務室に行くまでの流れ(*1)なんですけど、あの辺は絵コンテでイメージしていたときよりも映像になったときに「来たっ!」って。あれは本当に1本作り終えて達成感がありましたね。

堀川:ずっとアニメーションの制作環境はまず監督ありきで作り上げていくものだと思っていたんだけど、どうもそうじゃなくて、クオリティーの高い作品を作ろうと思ったら当然監督や演出なんだけれど、僕はまず監督や演出にとって理想の環境を作ることが先だなと思うようになった。現状クオリティーのためにまずは安定した作画チームの確保だと。作画チームの戦力確保が監督がやりたいことに最も制約を課すんだ。1つの作品に専念できるアニメーターのチームを作ろうと思っているのね。さっき話にあったように、アニメーターが描くものにこだわって調べるのも、どれだけその作品とガップリ組んでいるかだよね。そういう環境を目指そうと。監督や演出が「このチームで作品を作りたい」と思えるような環境を作ろうと思うの。その環境が整えば、それが初めから最高の技術集団ではなくても、刺激的な監督や演出と組むことによってポテンシャルはどんどん上がる、相乗効果が生まれるよ。橘君が演出のポジションからこう云う現場で仕事をしたと思う環境は、今の業界の現状でどの部分を強化すればいいって云うのは何かある?

橘:そうですね、やっぱり思うのは、ほんのチョロッと作品に関わるだけではドライな形で作品と付き合って終わっちゃうことが多いじゃないですか。キャラクターに対して思い入れとか愛を込めて描いてくれる人が少ないですね。やる仕事に対してもうちょっと愛情を注いでやってくれたらきっともっと楽しくできるんじゃないかなって気はするんですけど。資料を調べるのもそうですし、このキャラクターならこう云う仕草をするだろうなって云うところまで考えて描けたら最高なんだろうなって思いますけど。そこをコントロールするのが演出になってきちゃうので、例えばバトーだったら、ここでこう云う仕草をするとか、そう云うところで演出が「こんな軽いヤツじゃないな」って修正しちゃうこともあるんですけど。

堀川:でもアニメーターは(実写で言えば)役者だからさ、それを考えるのが一番おもしろくて腕の見せ所じゃないかな。

橘:そうなんですけどね、結局紙芝居的というか、このキャラクターは右から左に走り抜けますと云うだけで終わっちゃったりとか、そう云う原画が多いのでもったいないですよね。腕を下げる芝居でも凄く上手い人ってただ下げるんじゃなくて、掌を返して下げたりとか(動画の)中割参考をいっぱい入れるじゃないですか? そう云うところを描いていて面白いと思わないと難しいのかなという気はしますよね。

(*1)補足説明:見下ろすSWATの姿に茅葺のOFFセリフが被って、執務室の引きの絵に切り替わった瞬間です。ここの開放感が音楽と榊原良子さんのセリフとあいまってとても良い雰囲気になっていました。(解説:橘)

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