P.A.Press
2005.10.30

第4回 攻殻機動隊S.A.Cスタッフインタビュー/Stance Stance Stance「量産と作品の底上げを図る為に」 遠藤 誠 (3D監督)

「数字で言える」

堀川:もう1つ制作的な問題なんですが、3Dの生産効率で制作費のコストダウンが図られる部分と、どんどん新しい表現に貪欲になっていくと、解像度一つとってもそうなんですけど、画質、品質を上げていくことにものすごくコストがかかる部分がありますよね?

遠藤:あります、ええ。

堀川:画質、品質の追求を量産でどこまで求めるべきかって云うバランスも見極めないと、品質向上とDVDの売上が比例するわけでもないのに、ハードに合わせて制作費が高騰したゲームソフトのように製作側にとって非常にリスキーになっていくんじゃないかと思ったんです。3D表現を貪欲に追求しようとすると、ソフトの面でも歩留まりがきかずにものすごくコストが高くなっていくんですか?

遠藤:なりますけれども、作画と違うところは、その作品に3Dセクションで幾らかかるかって云うのが数字で明確に算出できちゃうんですよ。ソフトの価格も人件費も分っているし、その作業に必要な時間もレンダリングマシンも数字で全部算出できちゃうって云うことを考ると、比較検討できるものが必ず存在するんですよ。それに対してどうするかって云うのを判断できる。人材確保が一番の問題になっている作画の現状よりも、数字でどうこうって言えるのが3Dなんですよね。

堀川:その数字、データ管理のことなんですが、昨日のスタッフミーティングで俺反省したんですけど、3Dセクションの管理能力が欠落している。今後のラインプロデューサーなりデスクには絶対必要ですよね。まずは経験値を積む必要があると思うんです。制作予算の立案でも、作画なら絵コンテの内容を見れば動画枚数とか原画の難易度が想定できるんです。この原画マンがやればどれくらいの日数がかかるかも読むんです。ただ、3Dに関してそれを読める制作はまだまだ少ないと思うんですよ。現場で3Dをバリバリやっているところにはいるんでしょうけど、僕なんか全くモデリングの難易度も、モーションの難易度も判らないから工数(延べ作業時間)が読めない。分る人に聞くしかない。ここは経験値を積む必要がある。じゃあこれを3Dでやろうとすると3Dスタッフが何人必要で、どれくらいのスケジュールが必要か、どんなマシンとソフトが必要かって云う制作の管理能力ですね、遠藤さんが3Dは数値で明確に算出できると言われた部分は、まだまだ欠落しているなと反省しました。9スタでは遠藤さんがその部分もわりと自分でやられているじゃないですか? 3Dチームの監督がその管理をやっていくべきなのか、でもやっぱりラインプロデューサーは職務としてそれができないって云うのは駄目なんです。これはどんどん訓練していかなきゃきゃいけないんだなぁと思ったんです。そうすると、3Dのコスト管理に対しての情報にも敏感になる。ゲーム業界、日本の制作プロダクション、海外のプロダクションと、3Dコストの比較がなされていくので、今の価格設定が変ってくるんじゃないかと思うんです。まだ制作がその点で無知な分、言い値で設定されていたものは崩れると思うんですよね。そのあたりの管理に対してはどうですか?

遠藤:そうですね、まぁ、ぶっちゃけた話を言っちゃうと、制作側は誰もわかっていないんだろうなとずっと思っています。

堀川:(笑)。

「信用を勝ち取るのが重要」

堀川:そうですよねぇ。今回の3Dスタッフのキャパって僕には謎で、これだけの物量を次々と追加でお願いしますって頼むと上りが出てきちゃう、なんかすごい機動力の魔法のブラックボックスなんですよね。それに比べてよっぽど原画の方がジリジリとしか上がってこないので、制作も原画のスケジュール管理に神経を集中していればいいんだと考えちゃうんだけど、これからは生産効率とクオリティー維持のために3Dセクションが今以上に積極投入されるとすると、制作はもっと管理をシステマチックにできるようにしなければいけないんだろうなと思うんです。今まではそこが出来ているとは言い難いですよね?

遠藤:出来ている人はいないんだと思いますよ。唯一それが出来ていたのはたぶん木船(徳光)さんです。

堀川:制作ができていなくても作品が出来ていると云うことですよね、それ?

遠藤:できていました。

堀川:(笑)、今は制作の予測を凌駕するキャパだってことですね。だとしたら、制作はその部分をライン全体の効率化の為に積極投入することを機動的に追求するべきですよね。9スタは特に同じチームで経験値を積んでいるので、それは制作現場の新しいインフラに挑戦することになりますよね。その為には遠藤さんとどう云うやりとりが必要なのか、その管理能力がたぶん予算立案と工数を算出する人間には必要なんですね。

遠藤:そうですね、予算に関しては期限とかポスプロが分かれば算出できちゃうので、予算がそれだけしか出ないのであればそこからどうするかしか残っていない。

堀川:えっ、そんなものなんですか? まずもっと基本的なことなんですけれど、アニメーターはほとんどフリーなんですが、3Dスタッフの雇用形態の割合ってどんな感じなんですか?

遠藤:9スタの正社員は2人ですよ。

堀川:ほとんどフリーなんですか?

遠藤:フリーですね。作品契約。半拘束みたいな感じです。

堀川:であればカット単価のアニメーターよりも安定していますね。その人のマンパワーで、この人のスキルはこれくらいで、これくらいこなせるからこれを頼もうって云うような感じなんですね?

遠藤:そうです。そのかわり、それで一緒にやってくれるかどうかは結局信用してもらうしか無いので、その信用を勝ち取るのがやっぱり僕の中での重要な部分です。この仕事をやってもらう、でも、その人もフリーなので他の仕事からもオファーが来る、そっちに行っちゃう可能性があるって云うときに、僕がどんどん仕事を供給してあげればその人はずっといっしょに仕事をしてくれるとか、こう云ういい作品が出来上がるからいっしょにやってくれって云うのを、僕は各スタッフにプロデュースしていかなければいけない部分があります。それが今たぶん制作では誰もできない部分ではあるんですよね。

「3Dのディレクターに求められること」

堀川:制作もそのアニメーターに合う仕事はどう云うものなのかを考えて仕事を依頼するんですね。何度かいっしょに仕事をしたことがあれば、だいたいその人の作品の選択基準がどんなものかは解っているつもりなんですが、フリーの3Dスタッフの作品の選択基準はどんなものなんですか?

遠藤:僕の周辺に集めている人達は、2Dと3Dの合成をいかに上げていくかを探求しているスタッフを集めてきているんですよ。だからそれに特化した人間がいるんだと思うんですけれども、それをみんなで目指しているって云うのは多分直接本人には言わないけれども解っているんですよね。みんなそこは共有している部分なので、それで一緒にやれているって云うのはあると思いますけれども。

堀川:アニメーターだったら「2Dとの融合」と云う共通のテーマよりも、作品で選ぶとか、この監督、作画監督とやりたいとかそう云う部分が大きいんですが、3Dのスタッフも、遠藤さんとだったら面白い仕事ができるとか、自分が挑戦したいものをくすぐるようなものを振ってくれるとか、あとは、遠藤さんのモデリングなりモーションの技術から吸収できるものがあるとか、そう云う貪欲さもあるんですかね?

遠藤:多分そうだと思いますね。そこらへんは内容の割り振りや仕事の供給は気を使っているので、3Dの割り振り表を見ると実は分かると思うんです。何故そう云う割り振りになっているかって云うのが。そうなっています。

堀川:その部分を制作がやるのはかなりの経験がいるから、そう云う部分は「遠藤さんよろしく」でしょうね、多分ね。

遠藤:そうですね。それが出来る人はアニメーション業界の3Dの中にも多分各会社に1人いるかいないかくらい。

堀川:と云うことは、その会社に、P.AならP.Aに3Dセクションを置く場合には、そのトップに据える人材にはそう云うマネージメントが出来る人が必要なんですね。

遠藤:間違いなくそう云う人間がディレクターとして3Dにいなければいけないと思います。

堀川:その人の適正を見極めて仕事を振れるって云うことが大切ですね。

遠藤:そうですね、プロデュースに近いですね。それと、自分自身も研究を重ねる人間ですよね。

堀川:なるほどね。そうなると3Dスタッフを募集して面接したとしても俺は全然わからないような気がするんだよな・・・。

遠藤:アニメーション業界でそれが出来ている人は誰だ? ゴンゾに1人いるかなぁ、 4℃にも1人いると思うんですよ。

堀川:4℃の場合はもう監督がかなり3Dに詳しいんじゃないかなと思うんですよ。

遠藤:そうですね。

堀川:どの3Dスタッフは何に特化しているかと云うのももう監督がわかっているんじゃないですかね、勝手な想像ですけど。

遠藤:多分そうだと思います。もう完全に一体化しちゃったほうですね。多分3Dセクションの最終形態の一つだと思いますよ、4℃って云うのは。

堀川:そうですよね。

「3本かな」

堀川:3Dの生産効率のことなんですが、劇場大作アニメーションの制作には2年くらいかかるのが当たり前になってきている。精度の高いものを作ろうとすると、ほとんどが手作業のアニメーションでは実写では考えられないくらい時間がかかる。劇場大作アニメーションは結局もう優秀なスタッフを確保しないと作れないので、このスケジュール=コストなんですよ。ただ、アニメーションの劇場作品ってジブリを別にすれば、単発モノでヒットすることはめったに無いんです。さっきも言いましたが、あまり製作費が高騰しちゃうと、出資者にとって非常にリスキーです。劇場作品でも作画INから1年で完成するようなシステムを作れないかと考えていて、3Dの生産性を効果的に投入できれば可能性があるんじゃないかと。例えば今回の攻殻SSSの3Dのクオリティーレベルと物量なら、この作品だけに専念すれば年間2本でも可能なんですか?

遠藤:可能ですね。

堀川:原画は短期スケジュールになれば人海戦術になるんですが、3Dのチームは大体1チームどれくらいの人数なんですか?

遠藤:10人くらいかな。

堀川:10人くらいの優秀な3Dチームができれば、90分の長尺で、攻殻クラスの3Dを使用する作品で、どれくらいの生産力を目指されていますか?

遠藤:期間ですか?

堀川:年間生産分数を。90分の劇場何本って言ってもいいのかな。

遠藤:3本かな。

堀川:3本か・・・なるほどね。それだけできれば充分と云うか、たぶん作画が追いつかないでしょうからね、そうすると、I.Gの劇場3班に対して3Dチームは1班と云うことになるんですね。

遠藤:そうですね、実際今攻殻やって、『BLOOD+』やって『シュヴァリエ』やって

堀川:ああ、そうか。

遠藤:それに『守り人』の実験をやっていると、大体3本くらいが平行して動いていますし、去年の9スタの月産分数を算出しましたが、その、何を持って数値を出したか分からないですけれど、セクションに分けて欲しかったですね。3Dはどれくらい出していたのかって云うのを。3Dはあれ以外にコンサートの仕事とか同時に6、7本回していたんですよ。

堀川:じゃあ、セクション別に制作は算出しなきゃいけないってことですね。

遠藤:そうですね。

堀川:9スタ内では3Dチームの生産分数と作画、演出チームの生産分数が一致していないと云うことですもんね。それをプロシューサーは考えていかなきゃいけないんですね。

「どんどん先に行きたい」

堀川:いよいよ攻殻スペシャルについてなんですが、3Dチームの今回の目標については、決起集会で遠藤さんが言われたように、作画の領域を侵食しちゃうかもしれないけれども3Dチームは前倒しでやりますと云う話をされて、もうそれは結果として出ていることなんですが、そう云う意味では今回の目標は達成されたのか、更にもっとこう云うものを目標にしてやりますと云うものはありますか?

遠藤:うーん、やっぱり生産コストをどうするかって云うところですよね。コストパフォーマンスのことを考えると、攻殻の3Dスケジュールは結構曖昧な期間でただ闇雲に3Dを使っている感がありますが、もっと生産コストが判るようにスケジュール等引っ張った方がいいと思います。今どんどんスケジュールが延びてきちゃっているじゃないですか?良いっちゃ良いんですけれど、良くないっちゃ良くないんですね。本当はその期間でやれたはずのものが延びたら3Dチームは他の作品に着手出来なくなる。僕はフリーなので余計に思うんですけれども、月給もらっている人たちにはそう云う危機感って無いと思うんですよ。挑戦に貪欲な人達ってどんどん先に行きたいとか、もっと仕事を回したいんですよ、やっぱり。良く分からないスケジュールで進められちゃうと結構ネックですよね。まだやらなきゃならないことがいっぱいあるので、それに対して時間が勿体ないんですよね。

堀川:作画であればもうちょっと時間があれば表現にこだわれるのにとか、そう云う部分で時間で妥協を迫れらることがあるでしょうけれども、3Dに関してはこの期間であれば演出、監督が求めるものは表現できちゃうってことですもんね?

遠藤:そうですね。演出と処理打ちの段階でどれくらいかかるかっていうのが概算で分かっちゃうので。

堀川:そう云う意味では作画よりもずいぶん工数は読みやすいって云うことですよね。ただ、それぞれの担当のマンパワーをちゃんと把握していないといけないんでしょうけど。

遠藤:そうですね。

堀川:そのへんの管理能力が必要なのか。

遠藤:そうですね。そこらへんはスキルとは違う能力が必要なのかもしれないですね。

堀川:なるほど、それはプロデューサーとかなり密に打ち合わせなりスケジューリングなりに絡んでいく必要があるんですね。松家(*1)はやっていたんですか、そこのところは?

遠藤:やっていました。松家さんがあの当時やっていたのでTVシリーズは回せましたね。今の状況になっているのは、まだそこが上手くできていない結果だと思います。

堀川:それは3Dの深い知識が必要ってことなんですか?

遠藤:そうですね、知識も必要なのかもしれないけれど、何を目指していたのかって云うのがあの当時松家さんとは共有できていた部分なので、そこかな。最終的に3Dがどうなるんだろうって、おぼろげですけれども、どっちに行く、そっちに行くにはどうするって云うのがあの当時はありました。それを共有できていたからTVシリーズ攻殻はあれだけ回せたのかなと云う気はしますけどね。

*1 松家雄一郎 攻殻機動隊S.A.C TVシリーズのラインプロデューサー

「後ろを信じて前をやるしかない」

堀川:TVシリーズからずっといっしょにやってきたスタッフとの3Dに関してのコミュニケーションってどうでしょう? 3Dにこう云うことをお願いすればこれくらいのモノが上がってくるとか、演出としてはこれを求めているんだけれども、撮影、3D、仕上セクションがさらにプラスアルファの提案をしてくれるのが非常にありがたいって云う話をしていたんです。そのあたりはやっぱり同じチームで経験値を積み上げていると云うのもあるんですね。

遠藤:あの9スタと云う場所が重要だったりするんですよね、やっぱり。

堀川:そうですね。攻殻SSSのスタッフに対して、残り少ないですが何か一言ありますか?

遠藤:頑張れとしか言いようが無いですよね(笑)。

堀川:(笑)

遠藤:でもやっぱり思うのは、良いものを作るしか無いですよ。それ以外なにも無いので。

堀川:今はBパートの編集用のモーションが終わってCパートにとりかかっているくらいですよね?

遠藤:そうです。

堀川:手応えとしてはどうですか?

遠藤:そうですね、Aパートの戦闘シーンの一連とかを見てもらえればと思うんですけれど、監督チェックの前に僕の方でだいぶ潰しちゃっているのでなかなか出てこないですけれども、上がりはいいかなと思っていますね。プラス撮影の田中さん(*1)に素材を渡したところで後を信じるしかない。後ろを信じて前をやるしかないと思っているので、そこは田中さんとは良い連携を取れているかなと思うし、信頼関係が出来ているかなって云う感じかな、やっぱり。

堀川:なるほど。Dパートのあの物量とヘビーな内容で、制作がシミュレーションできていなさそうなところの警告はありますか? 言って貰った方が、やっぱり頼り切っているところがあるから。

遠藤:そうですね、レイアウトを切るまではやっているし。

堀川:充分それはこのスケジュールがあれば行けるよって云う手応えが?

遠藤:そうですね、スケジュールが無いので行けないとは言えない(笑)

堀川:(笑)。これから並行して『守り人』と『シュヴァリエ』と『BLOOD+』か。

遠藤:その兼ね合いがどうなってくるかですね。

堀川:最後にファンに対して一言。ここが見所だよ、とか。

遠藤:どこが3Dか探してください、かな。

堀川:(笑)、なるほど。

遠藤:P.A.もいよいよ3Dセクションを作るんですか?

堀川:今はね、焦らず3Dチームの要となる人と出会うのを待っているところです。今日の話で僕もだいたい何を目指して、どんな人を探せばいいのか分かってきました。そう云う人にすごく会いたいと思っていると、そのうち出会いがあるものですよね。そこがしっかりしていないと、3Dセクションを立ち上げても、途中で何度もゼロに戻ってしまう。そう云う人に僕が出会うまではP.A.もまだ時期尚早ってことかな。そのへんは運を信じているんです。今日はどうもありがとうございました。これから最終追い込み宜しくお願いいたします。

(*1)田中宏侍:攻殻SSS撮影監督

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