P.A.Press
2012.12.1

第5回 安田 猛 アニメーション制作会社の選択肢

業態変化の中で制作会社が生き残るには

安田:アニメ制作会社にも1クール作品をメインにした小規模マニファクチャ的な会社と、大量生産型でキッズ向け作品などをメインにしてきた会社がありますよね。ひと口に制作会社と言っても両者の間には実は大きな隔たりがあります。1クール作品という一気呵成に短期決戦ができるスキームができたおかげで、小さな制作会社が成立するようになったんです。

菊池:そうかもしれませんね。

安田:元々小さな制作会社を生み出していたOVAビジネスは、完全にすたれてしまいました。だけどOVAと4クール作品など長いシリーズとの中間の規模にあたる1クール作品があってちょうどバランスが取れているのかもしれません。

菊池:確かに、それならば小さな制作会社でも作れます。

安田:スーパーアニメーターや年長のアニメーターを雇うのは人件費が高すぎてむずかしくても、若手のアニメーターたちと一緒に元気にやっていくのには1クール作品は向いてると思います。年に二本くらい1クールものの元請け作品が確保できれば会社を維持できる構造になっていて、それでも事業的に厳しいときは大手の下請けをやるなど、うまく体制を組めれば制作会社としては成り立つのかもしれない。そういう意味ではアニメ業界はここ10年で明らかに構造が変わったんだなあと思います。長いシリーズものの作品がほとんど消えてしまって、それを中心に回っていたビジネススキームも崩壊してしまった。一方でそれに代わるものはパチンコのアニメーションパートだったりする。でもアニメ業界に対してその技術を必要として参入してくる会社があるというのが、先ほどの家電メーカーのような大量リストラをしなくていい要因、アニメ制作の需要が減らない理由でもあるかもしれませんね。

安田:ところでまとめるのが大変そうですが、これどうするんですか(笑)

堀川:まとめますよ。だって今後のうちの方針に関わることですから。

安田:そうですよね。自分が知っている制作会社が全部どこかの大企業のグループ入りするなど実際に文字化してみるとびっくりするような状況になっています。

菊池:そういうレポートも実際出ていて、いわゆる「業界再編」が進んでいるのは確かですよね。

安田:そうそう。業界再編が起きている。じゃあなぜグループ化されずに済んだ会社があったかというと一つは店頭公開して上場したからなんですよ。それによって資金繰りを得た。

菊池:そうですよね。

安田:もう一つは株の持ち合い、あるいは出版社などのクライアント側に株を売ることによって安定して作品の供給を受けている。経営的にすごく不安定になって株を渡した時期から柱になるような作品が安定してもらえるようになったと思うんですよね。

菊池:出版社などから「同じグループだからここに出そう」みたいな流れができたんですよね。

堀川:でも、大きな企業が「こんなにアニメーション制作会社に仕事を出すなら子会社化しちゃった方が楽じゃないの?」と思って制作会社を吸収(グループ化)してみたけれども、結局クリエイターをコントロールしきれずに手放すことが過去には多かったような気がします。グループ化されたとたんにクリエイターへの管理がものすごく厳しくなるんですね。企業としては当然ですけれども、「1ヶ月にどれぐらい仕事をやったか」の申告など。そうすると、フリーのアニメーターはみんな離れていってしまう業界なんです。結局企業には吸収(グループ化)できないとみなされて、クリエイターのコントロールは制作会社がやった方がいい、となった気がします。これが例えばパチンコメーカーみたいな資金が潤沢な所だと、同じような目には合わずに吸収(グループ化)できてしまうものなんでしょうか。

安田:もちろん企業カルチャーみたいなものもあると思うんですが、結局は時間をかけて環境を変えていったんだろうなと。一つは徹底的にグループに準じた社員構成にするということ。もう一つはアニメーターを契約社員的なニュアンスで雇ってコアタイムのあるフレックス制にして就業時間をある程度自由にするやり方です。達成給方式、年俸制方式、あと基本給プラス「何枚描いていくら」みたいな方式などいろんな企業体がそれぞれの最適解を探して苦心しています。昔は全部一律に親会社に合わせようとしたからうまくいかなかったけれど今は親会社もそういう運用を認めるやり方に変わっているでしょうし。以前はコアタイムやフレックス制という概念がなかったと思うんです。

菊池:20年以上前の話ですか?

堀川:20年ってことはないと思うな。僕が今年(2012年)業界22年だから。

菊池:じゃあ15、6年前?

堀川:そんなもんじゃないかな。

安田:フレックス制が定着したのはここ10年ぐらいの話ですから。コアタイム制とかもやっと導入されたじゃないですか。ウチのグループの角川大映スタジオだと技能社員がすごく多いんですよ。どうしてかというとみんなスタジオに映画のセットを作る人だから。

菊池:そうですよね。

安田:スタジオの社員なんですが、大工さんでもある。色塗ったりする人たちはペンキ屋さんでもある。

菊池:美術さんと大道具さんですもんね。

安田:元々大工さんやペンキ屋さん的な技術者を技能社員にしているのでフリーのアニメーターに非常に近いのかもしれないですね。

菊池:その場合の給与体系ってどうされているんですか?ベース(の金額)が決まっていて、プラスアルファの歩合という感じですか?

安田:そうですね。だって例えば何か突貫で作らなきゃいけないとなると・・・

菊池:「定時で」「タイムカードで」となったら、いろいろ難しい問題が出てきますもんね。

安田:だって「部下に親方が何人いて」という話ですから。

菊池:ゼネコンみたいですね(笑)

安田:みんな普段から「親方ァ」って呼ばれているんですよ。

菊池:安田さんが?

安田:違う違う(笑)

菊池:ああ、びっくりした(笑)

安田:「課長」の代わりに親方制度なんですよね。

菊池:ああ、なるほどそういうことか。すごいなぁ!(笑)

安田:私はその親方の上司なんです。色々ありすぎて訳がわからない(笑)

菊池:確かに。でも概念的にはフリーのアニメーターに近いかもしれません。

安田:ちょっと余談でしたが。今会社の経営や社員のマネージメントの仕方などが変わってきていろいろなバリエーションをつけながら適正な組織運営をみんなで心がけているから成り立っているように思います。

堀川:最近パチンコの仕事が増えてきて、徐々に制作会社も原画マンも意識が変わってきたように思います。ひと昔前だったら単価が少しくらい高くてもパチンコの仕事を敬遠する制作会社やアニメーターが多かった。それは、彼らがどの様に仕事を選んでいるか、ということにかかってくるんですが、アニメーターはやはり「作画で評価されたい」「ドラマ性のあるものを、映画を作りたい」という志向が強いので、それが実現できる作品を選んで制作現場を移動します。流動性がすごく強いんです。さっきおっしゃったように、大企業が親会社の制作会社なら、アニメーターも社員にしてもらえる、という考え方もあると思います。ある程度ベテランになって「そろそろ会社に所属して安定したい」という人には、在籍する制作会社の仕事をやりながら、会社のラインに余裕があるときには自分のやりたい作品を請けるという選択肢もできたというべきなんでしょうか。

ほとんどのアニメーターは社員ではないので、全員そろって朝10時から仕事をする、そういう会社は作れない。富山本社のスタッフのように、みんな一斉に仕事をして、夕方5時の宅配便に全員が原画、動画の上がりを載せてくれるのは、制作の管理コスト的にものすごく助かるんです。朝から深夜まで、バラバラの時間と場所で仕事をしているフリーの原画マン一人ひとりに集配業務を対応させるのは、その管理だけでものすごくコストがかかります。みんな一斉に、決まった場所で、決まった時間に仕事をし、それを少人数で管理するシステムを作ることで、抑えられたコストをアニメーターに還元できるということをなんとか成功例として示したい、というのがウチの目指している方法です。大勢のフリーの原画マンを作品のプロジェクトごとに集めるやり方では、その方法を浸透させるのが非常に難しいのがこの業界なんです。アニメーターからの協力がなければ単価が上げられないんだということは、説明しても先ず実感してもらえません。協力したことで自分たちに還元されたと実感してもらうまでには短期間では無理なんです。何年間も一緒にそういう体制の下で作品づくりをやって、制作会社として強い制作基盤を構築していく中で、それが制作現場に還元されるというようなものなので、現状の、作品ごとに「ワッと集まってワッと解散」というプロジェクト制だと、いつまで経っても無駄な管理コストをアニメーターに還元できないな、という思いはありますね。企業とクリエイターの良い依存関係、協力関係を実現できないかと思っているんですが。

現場スタッフを束ねるために必要なものとは

安田:この鼎談の冒頭で「自律的な制作会社」に関していくつか質問がありましたよね。

堀川:はい。

安田:その①の「アニメ制作会社が今後目指す選択肢」について考えてみましょう。大企業の傘下に入らず、制作会社として独立してやっていくのであれば、人数を増やさないで機能重視の組織運営にしていかないと生き残れないということですよね。じゃあどこまで広げたらいいのか、どの業態でおさめたらいいのかという問題はあるかもしれません。

菊池:結局、多くの制作会社が本業だけで事業を行っているとは思えないんですよ。アニメーション本編の制作費だけでは食べていけない。作り続けるためにそれ以外のことをやって収益を上げるような構造を模索せざるを得ないですよね。

ウチも本来本業で(頑張る)という方針が基本にあって、それは正しくて本来の美しい姿なんだけれど、さっきの業界の変遷も含めて、もうそういうマーケットにはなっていません。でもその中で自分たちの作りたい作品を、今後もみんなと気持ちよく作っていくためには、本業(の収益)だけではむずかしいという実態があるから、他社さんも多かれ少なかれ同様の考えなのではと思います。

堀川:製作費だけでは、クリエイターと契約するための付加価値の部分をとてもじゃないけどまかなえないから、グッズ販売とかカフェとか、他に収入の間口を広げることを目指している会社があります。今制作会社の形がどんどん変わりつつある流れの中で、これからの制作会社が目指すべき、理想にしたい例が(自分の中に)ある訳ではないんですよね。

安田:私は、堀川さんがご自身の理想を追求するべきなんじゃないかと思います。望むビジョンがあるのであれば、先ずそれを実現するということが重要な気がします。というのも実は、私も以前ちょっと似たようなことがあったんですよ。私がアニメと並行して統括している角川書店の実写映画部門は角川映画、大映、日本ヘラルド映画などそれぞれ歴史と伝統のある組織が合併しているんです。そんな実写部門を建て直すにあたって「業務改善のための13カ条」というのを作って、社員総会でみんなに配って説明しました。「こういうことをやりましょう」「こうするとよくなります」「これはやめましょう」みたいなもの。様々なバックグラウンドを持った人間の心をどうやって一つにしていくかを考えた時に、先ず私の考え方、思想を社員の方々に提示することが必要だと考えたんです。

堀川:その後それを継続的に見直す、浸透させていく方法には何か工夫があるんですか?

安田:作ったからやれるのかという問題はあるんですが、一つは出版のノウハウを取り入れて企画を数字的にプレゼンテーションするための会議や作品収支を検証する会議などを立ち上げました。自分たちがやっている仕事が黒字なのか赤字なのか、どうすれば良くなるのかを知る必要があります。それらを実感するための会議です。

菊池:なるほど。フィルタリングしているんですね。

堀川:「こういうものを会社が大事にしているんだ」ということを社員に浸透させていくための会議が必要だなあと思っていて、それは毎週やっているんです。現場はしょっちゅうトラブルがあるので、そのトラブルにどう対処していくかの判断基準、ウチの会社は何を大事にして作っているのかを現場に浸透させていくことが、新人の制作を育てることかなと思っています。

菊池:すごくシビアなインタビューが続いております(笑)

安田:なんか和やかな雰囲気なのでシビアな会話に全く即してないですね(笑)

堀川:いや、そんなことないですよ。内容がいろんなところに分散してますからね。

菊池:それをまとめるのが堀川の手腕です。大丈夫です(笑)

安田:ほんとですか(笑)?

堀川:頑張ってまとめます。

安定は制作スタジオの大敵?

安田:アニメ制作会社を傘下に収めた企業が、(その会社を使わずに)他の制作会社で作品を作る場合も多いんです。

菊池:え、どうしてなんですか?

安田:外の制作会社のほうが対等にクリエイティブなことができるというのと、求めている作品を傘下の制作会社で作ることが難しい場合とがあります。

菊池:あー…なるほど。

堀川:制作会社が長い年月を経ていく中で、それほど労力をかけずにキッズ向け作品やマーチャン向け作品を作った方が利益が上がるからと、そちらへ制作する作品傾向をガーンとシフトさせた時点で、クリエイティブなことにものすごく熱量を持ってバリバリ描くアニメーターは去ってしまったんだと思うんですよね。年配になっても割と安定して食べていきたいっていう人たちの集団になっていって、そこに今風の作品を入れようとしてもできないと思います。

安田:結局親会社は「あれ?」みたいになってしまう。

菊池:「違ったもん買うてもうた」みたいな感じですか。

安田:時代のニーズは常に変わっていきますからね。企業の傘下に入ってしまったがために、制作会社がその変化に対応できなくなってしまうということがあります。

菊池:そうですね。(クリエイティブな)制作集団が、次から次へと現れますからね。そこと付き合っていく方が、フレキシブルにやれますから。

安田:ええ。角川がなぜアニメ制作会社を傘下に持たなかったのかはそういう理由なんですよ。制作会社は変幻自在に変わっていくものだけれど、傘下に入ると時間が止まってしまうというか、制作会社としての企業理念、切磋琢磨して生きていくためのクリエイティブな部分を維持していく熱意を、「安定」という形でスポイルしてしまう可能性がありますので。そうなると結果的にクライアント側が制作会社に求めているものと一致しなくなってしまいます。

菊池:その通りだと思います。

堀川:例えば予算もガチガチで安く上げるスタイルで、すごくカロリーの低い作品をどんどんどんどん作っていくと、長期的にはやっぱり危険な方向になっていくと思います。

安田:ええ。その一方でいい作品を作りたいから自分たちが主体になって作るという方向性もありますよね。ただその前提で制作費を上げてクライアントがつくかというと、1、2回はちょっと面白がってついてくれる可能性もあります。でもそれ以降は高い値段を付けても中身がそれに見合わないと、クライアント自体も引いていってしまう。

菊池:そうですよね。(値段に)見合う中身とは何なのかというと、クライアント自身の商品にそれを転嫁した場合に採算が合うかということですよね。

安田:じゃあ制作費を下げて仕事を振ってもらえるかというと、安かろう悪かろうになってしまう。だったら安くてもクオリティの低い制作会社には仕事を振りたくないですよね。やっぱり適正な制作費と適正なクオリティが求められます。するとさっき堀川さんがおっしゃったように、安いのも高いのもどっちもダメだと思うんですよ。

菊池:結局市場がそれをコントロールすることになってしまっているんですよね。

安田:例えば通常よりも多く作品に出資している制作会社もあります。制作会社が投資しているから、クオリティを保証してくれているんだなあって思うじゃないですか。そのあたりの違いですよね。

堀川:今のビジネスモデルでは、「DVDとかBlu-rayがこれぐらい平均売れる」「じゃあ何パーセント出資したらこれぐらいバックがある」ということも見込んで試算すると、年間4クール近く作らないと、100人くらいのアニメーション制作会社は維持できないんじゃないかと思います。

制作現場スタッフのやりがい

堀川:ちょっと質問②に移って考えてみようかなと思うんですが、アニメーターに「どんな時にやりがいを感じるか」と聞くと、ほとんどが「自分が狙った通りの動きになった時」と、「スタッフ、特に監督や演出にほめてもらった時」というとてもシンプルな答えで、そうだろうなと思いました。今業界で一番足りないのは、アニメーターが直接演出なりから評価してもらう機会だというところがありますので。それは現場で何とかしていこうと思うんですが、それをアニメーション制作会社に置き換えてみると、昔はクリエイターに作りたいものがあって、その作品は視聴者の評価はあまり気にせず「作りっぱなし」だったような気がするんです。でもこれだけネットが普及して、Twitterなども含めて作り手が視聴者からの反響をものすごく気にするようになった。クリエイターも制作会社も、もっと市場の評価に対して、「どういう姿勢でそれを受け止めればいいのか」というのを考えるようになったと思っているんです。例えば僕らがイベントをわりとよくやっているのは、どういう人たちが僕らのお客さんなのか知るために、クリエイターも含めて直に会うべきだと思っているからです。あと「応援しています」「いつもいい作品をありがとうございます」って言っていただけると、すごくうれしいんですよね。「この人たちのために僕らは作っているんだ」とすごく実感できるので、どんどんやっていくべきだよ、と話をしています。他にも、制作会社としてのモチベーションを上げていくための工夫が、クライアント・スポンサーからのダイレクトな評価なのかなと思っています。

安田:そうですね。制作会社と製作委員会、例えば販売メーカーや出版社などとのコミュニケーションをどういう風に充実させていくかということですよね。そうすればその作品が業界にどうやって貢献するのかも様々な観点から見ることができますし。他にも例えばコミケに企業ブースで参加したり富山で地域イベントをやるっていう方法もありますよね。

菊池:やらせていただいていますよ(笑)

安田:それをもう少し横に広げるという手はあるかもしれないですね。

菊池:今年の城端むぎや祭の時に、「越中動画(仮)本舗」として店を出したんです。そうしたら、それこそ全国から来ていただける訳ですよ。しかもたくさん買ってくださる人たちもちゃんといらっしゃって。そういう人たちは(グッズに)キャラが入っているとか、いろいろな理由はあるにせよ、「お金を出して物を買うんだ」という考え方をしてくださる。一方で、デジタルの方に行けばいくほど、タダになるという発想があります。

安田:そうそう。それは「複製品は限りなくタダでいいだろう」という、(ある意味)正しい考え方なんです。でも手描きの物に価値があるという文化意識は、もしかしたら日本人独特のものなのかもしれません。

菊池:アニメファンのみなさんの場合は、オフィシャルグッズのコピー商品はあんまり買わない気がするんですよね。

安田:やっぱり自分の心に嘘をつきたくないんだと思います。

菊池:そういうことですよね。根っこには「作品を愛して支えている」という思いがあるのではないかと思います。

新人クリエイターを育てる

堀川:質問②でもう一つ、クリエイターの評価についてです。

安田:「クリエイターがどんな時にやりがいを感じるか」という質問でしたね。

堀川:評価する側の問題ですが、作品の責任と権限を持ってアニメーターの上がりを一番最初に評価、指導するのは演出なんです。ところが今の新人アニメーターに対しては、それがほとんどなされていなくて。

安田:なぜなんですか?

堀川:一つは、演出の仕事量が大きすぎて、そこに時間をかけられないんです。もう一つは、労力をかけて教えたとしても、それが将来自分のメリットになることが、今はとても少ないんです。新人を教育したとしても、また次の作品で一緒に仕事をする機会は昔に比べて減りました。所属スタッフの入れ代わりが少ない会社の場合なら「こいつに教えれば、腕を上げていつかは自分の仕事で役立つだろう」という中長期的な展望はまだ持てるのですが、そういう現場は少なくて、1クール作品のプロジェクト単位でスタッフ集めと解散を繰り返す場合が多いんです。あとは「ちゃんと評価できる」演出の力量に幅があって、指導方法の基本が確立していないんです。演出にそれを教えるのは誰かというと本来は監督なんです。監督や演出が社員だった頃は、徒弟制度の中で教育していたと聞きます。私が業界に入った頃は既にそうではなかったのですが、いま指導者が養成されていないのは業界の大きな問題だと思うんです。私はそれをアニメーション業界の中だけで見ていますが、安田さんは指導者の養成についても広いところ、別の視点で見られているのかなと思うんです。

安田:技術的な部分だけを見れば、アニメーションの動きやセンテンスの作り方などには共通した基礎テクニックがある。その部分はルールにのっとって教育することは可能だと思います。でも作品作り、演技や表現の部分を社員教育の中で伝え、育てていくのはなかなか簡単ではないですよね。出版社では作家の能力を引き出すための編集者を育成します。そこにはマニュアルがある訳ではなく、原稿を取る日常の業務や先輩のアドバイスなどから各自がノウハウを学び取っています。アナログで同じだと思いますよ。

堀川: 新人のクリエイターがどんなことで自信を持って、仕事に喜びとやりがいを感じるかというと、まず直属の演出や作監に評価されることなんです。仕事に関わって評価できる立場の者は、彼らを「育てる」という意識とスキルをもたないと、いつまで経っても自分の前に積まれる上がりに不満を言っているだけになってしまうと思うんですよね。

制作が「あなたのチェックのノルマは1日15カットです」と演出に言うと、「この上がりでそんなに出せる訳がない、だったら上手い原画マンをそろえてよ」という言い分で、大抵は制作の引いたスケジュールには乗らないんです。TVシリーズ1本回せるだけの上手い原画マンを集めるには数十人が必要で、作品数が多く原画マン不足の現状では、通常の方法ではできないでしょうね。売り手市場になるわけだから、大きくコストに跳ねかえってきます。

その演出を育てるためには、監督が「指導者を養成する」という姿勢で仕事をする制作現場を作っていかないといけないと思います。そうすることで、末端の新人は成長に役立つような評価や訓練の機会を得られるのです。ところが今はどの現場でも、監督が演出を親方的に指導することはほとんどありません。参加してくれた演出に気持ちよく仕事をして欲しい、というのが監督の姿勢なんですよね。ある監督が、「今は教えづらい、最近のレイアウトチェックに対していろいろ思うけれども、演出ミーティングをして『こうだ!』ということを継承していく場はほとんどない」とおっしゃっていました。育成のための評価方法と機会が今の制作現場には足りないんです。

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