P.A.Press
2012.12.1

第5回 安田 猛 アニメーション制作会社の選択肢

監督による新人クリエイター教育

安田:なるほど。それなら方法は二つしかないと思います。ちょっと身も蓋もないかもしれませんが、一つは組織の一員に組み込む。若手を教育するという概念が自然に生まれると思います。もう一つは(評価する立場の人に)育成費を出すというやり方です。

菊池:育成費も、教えて欲しいから払うものと、教えて結果が出たから払うものと、二つありますよね。

安田:「一人当たりいくら」みたいに最初に提示する。ですから併せて(育成した)結果に関して評価する人も必要になります。少なくともやらないよりはやった方が育つだろうという前提と、ギャランティーという動機が追加されるのなら育ててみよう、という人も出てくるだろうなということです。

堀川:付加価値ですね。その人が演出をやることによってアニメーターが育つのであれば、その付加価値に対して、企業としてギャランティーを支払う用意があると。初元請作品の「true tears」を制作した時、うちには新人の原画マンしかいなかったんです。なので西村純二監督と、キャラクターデザイン・総作画監督の関口可奈味さんには、「うちは全員新人原画マンなので、育ててもらえないか」と話をしました。それから5年経って、関口さんが、「適当な姿勢で描いている人とは全然違う原画マンに育ちましたよね」と言ってくれたんです。それは長い目で彼らの成長をずっと見続けてくれたからなんですよね。そうすることで、関口さんが今後もうちの作品をやってくれるときは、彼らの戦力が自分の仕事に返ってくるメリットがある。今は下手でも「学ばせて下さい」という姿勢の新人の原画マンを育成指導した方がやりがいがありますということで、【true tears】以来、キャラクターデザイン、総作画監督としてずっと一緒にやってくれています。

演出の場合も表現スタイルは作品によって違うし、その人の好みもありますが、基礎的な技術はあるので、それは誰でも教えてやれることだと思います。「下手だ、チェックが出来ない、上がらない」なら、評価と学習の機会をチェックに組み込む方法を考える。実際の仕事と育成を連動させるチェックシステムにしなければ、現状はこの先も全然改善されないと思っています。

安田:やはり堀川さんが社員監督を育てるしかないんじゃないですか。

堀川:監督が先ず演出を教育して、その演出がちゃんとした基礎理論のもとで新人を教育できるような環境を作りたいんです。でも、これは僕のジレンマなんですけれども、いろんなジャンルの作品のオーダーがあったとき、その作品に合った監督とチームで制作したい。けれども監督には作品のジャンルに向き不向きがあります。監督を社員制にすると、その人の得意とするジャンルの作品を選ぶことになるので、受けられる作品の幅が狭くなってしまいます。現段階ではP.A.WORKSの作品傾向を固定したくないので、それは避けたいんです。

安田:でも作画は常に安定させられますよね。

堀川:そうなのですが、作品の良し悪しの鍵を握るのは先ず監督じゃないですか。

安田:何かもう一つのルールを作っていかないと。そう考えると作品によって監督を変えていくラインと、社員監督がいるラインと、大きく分けて二つのラインがあればいい訳ですよね。社員監督が一人ではなく何人かいて安定していて、別のラインで(外部から呼んだ)監督に合わせて作るという風にすれば、(品質の)ブレはほとんどなくなるんじゃないでしょうか。

(「 社員監督と外部監督」 へ続く)

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