P.A.Press
2005.5.1

第3回 石川光久 プロダクション・アイジー社長 「ずばり、雑・草!」のシナリオ

「暴れる奴等を呼ぶ男」-若手プロデューサー達の成長-

暴れる奴等を呼ぶ男
「お伽草子」担当
中武哲也プロデューサー

石川:中武(哲也)みたいなプロデューサーは、会社がある程度底上げした段階で育つんだ。解るでしょ、堀川? 小さな会社だと、ああいった人間は規格外だからさ、バランスが保てないの。

堀川:(笑)でも、僕の今日の研修会の印象は、I.Gって制作のスタンド・アローン・コンプレックス狙ってるんだなって。

石川:そうそうそうそう。中武みたいなヤツが出てくるから、それに続く奴等が出て来るんだよ。とんでもねぇ奴等だよ、あいつらはさ。ちょっと前、I.Gで講演をやってもらったことがあったんだけど、居眠りしているんだよ!

堀川:ははははは。

石川:ね、俺、もう、本当に、お前、人の気持ちを何と! って奴等だと思うんだよ。でも、その反面、面白いヤツだと思うんだよ。こいつは面白いと思うの。こう云う面白い奴等がね、スタッフの話を一生懸命聞くの。本当に面白がって一生懸命聞くんだよ。そうするとスタッフも面白がって、こいつに俺のことを見てもらいたいって云う一流のスタッフが出てきたりするんだよ。そうなるかどうかはね、アレだけど。
 I.Gも初期の段階ではこう云う人間はいなかったよ。逆にいてもらっても困ったかもしれないの、最初は。さっき言ったように、そう云う人間が育つ環境って難しいと思うよ。会社の規模もある。足並み揃わない、統制が取れない、服装バラバラだし、居眠りするし、一歩間違えるとすごく○○だし、気分悪けりゃ○○するかもしれないし。それでも面白い連中だからさ。

堀川:『それ、たぶんフォローになってないですよ』

石川:付き合っているスタッフも面白いと思ってくれると思うんだけどね。だいたいそれくらいじゃないとヒット作なんて出来ないと思うよ。I.Gは今までキチッと作ろう、カチカチとね、正攻法でやってきたから、そんな規格外れなヤツとか変わった連中は、どちらかと云うと排除して作らなきゃ出来なかった。下請でやろうと思えばそうだよ。それが、今は権利が貰えて、オリジナルも作る、会社が原作も持てるようになったら、そこには面白い制作がいてね、そいつらが面白い奴等を呼んできて暴れさせるようにならないと面白い発想なんて出てこないもん。I.Gもやっとこう云うプロデューサーが育つ環境が整ったと云うことだよ。

(*講演中居眠りしていたのは中武Pではなく新人制作だそうです。誤解を招く表現ですみませんでした。あいつら≠中武Pです。)

「じゃあ、やれよ」-手を上げた制作-

波乱を奏でる男
「BLOOD+」担当 
大松 裕プロデューサー 

堀川:I.Gは会社の規模と共に人材の許容範囲が大きくなって、人材構成も変わりつつあるってことですよね?

石川:変えなきゃいけないんだよ。変えられなかったら会社はやっぱり潰れるからさ、間違いなく、どこの会社も。みんな好きなようにどうぞやってくださいって言ったら、間違いなく。

堀川:企業の寿命を考えると、どうしても核になる人材の年齢がいくとともに活力は低下してくるじゃないですか。どこかの段階でうまく次に託していかないと、システムが硬化していくと思うんです。僕自身考えたりするんです。I.Gにとって「イノセンス」って云うのは、設立から15年をずっと支えてきた人材の、ある意味集大成の時期に来たんだと。今はここまで大きくなった組織が硬化しないために、企業の血液である人材を大きく入れ替えている時期なんだと。それを狙って動いているなぁって云うのは傍から見ていてもわかるんですが、もう1つ、劇場作品とビデオを中心に回してきた会社が、TVシリーズのラインをいっぱい作ったのは、ファイナンスのためですか? 作品の著作権を持って、担保価値のある資産を増やそうとしていると云うことですか?

石川:それは無いね。

堀川:あ、無いんですか?

石川:軸は人だからさ。

堀川:『復唱‘軸ハヒトダカラサ’』

石川:ね、やっぱり制作が弱いと思ったの。制作が弱いというより、劇場作品中心だと制作にチャンスを与えられないんだよ。だから、人が育つには、制作プロデューサーが育つには、TVシリーズを回すことだと思ったんだよ。そうしたチャンスを与えれば、必ず人は育つからね。そのヒントを作ってくれたのは中武(哲也)だったりしたんだよね。「お伽草子」をやるって言ったら、ベテラン制作はたぶん断るよ。やらない方がいいって。その大変さは予想がつくからね。でも中武は怖いもの知らずであったのかも知れないけど、「やりたい」って言ったんだよね。(*中武P確認済。「はい、そうです」)やりたいと思うからやらせる。やりたくない仕事をやらせているつもりはないの。「一本立ちしたいから自分にやらせてくれ」って言ってくる制作には、「じゃあ、やれよ」って言う。「S.A.C」だって、劇場(イノセンス)やりたいかって聞いたら、「やりたくありません。シリーズやりたいです」って言ったからやらせたの。「BLOOD」の大松(裕)だって、担当プロデューサーの経験もなくいきなりだから、普通に考えたらすごく重たいタイトルだよ。

堀川:彼は今、仕掛けているなぁ、巻き込んでいるなぁって思いますよ。

石川:それが出来るヤツは出来るんだよね。ただ、そのパワーを出すには、大松は今が旬なんだよ。5年先に始めたらだめなんだ。だから少々リスクはあってもさ、波乱のシリーズになっても、今やらせないとダメなんだ。大松、ものすごく育つと思うよ、一年で。今、上の人間が何人も抜けたけど、そのことで若い制作が育つの。だからテレビシリーズは担保、なんてのは考えていないよ、石川は、全く(笑)。

「初めて世界を狙った」

世界市場で喜びを叫んだ女
「IGPX」#12担当
ホソノ モモヨ

堀川:I.Gに出版部が出来るって聞いたので、原作権持つんだ、と思ったんです。著作権自体を信託の対象にできる信託業法改正を生かしたファイナンススキームかなって。

石川:いやぁ、全く無いよ、そう云うの、ナイナイ、うん(笑)。

堀川:そうなんですか?

石川:基本的に無いよ、そう云う考えは。人だよ。人を大事に、厳しく、育てるときに育てないと。人を育てるのって経営者の仕事だからさ。

堀川:話は戻っちゃうかもしれませんが、今I.GはTVシリーズをいっぱい作っているじゃないですか。でもI.Gがこれから海外でディストリビューターと対等の、パートナーシップを獲得していこうと思っているのなら、やっぱり闘える‘モノ’って劇場作品ですよね? TVシリーズでハリウッドと闘っていこうと云うことでは無いんですよね?

石川:「イノセンス」をやったことよりも、今「IGPX」の方がビジネスとしては可能性があるよ。神山(健治)さんもインタビューで言ってたけど、「IGPX」って‘0’から‘1’の企画なんだよね。でね、「イノセンス」は‘5’を‘10’にする仕事なんだよ。‘0’から‘1’がどれだけ大切で、どれだけチャンスがあるかって云うのはさ、なかなか‘0’から‘1’へ上げられることは無いから。それがカートゥーンネットワーク、バンダイと出来た、‘0’から‘1’がさ。劇場作品と云うよりも、ビジネスチャンスは間違いなくそこに転がっている。掴むかどうかはこれからだけどさ。

堀川:I.Gが向こうとやる契約書の攻防戦には、‘カード’は劇場作品もTVシリーズも関係ないんですね?

石川:うん、結構同じだと思っている。いや、TVシリーズのマーチャンの方がビジネスの可能性はデカいよ。ただ、ブランドとしてはどうかな、とは思うけどね。やっぱり映画をやっていくのって、ブランド性が高いから。「イノセンス」をやったことで、間違いなくI.Gのブランドが一段上に上がったと思うんだよね。売上とは別に。「IGPX」は違うんだよ。まずビジネスとして成功させたいんだよ。I.Gの名前を売ることよりも。それは全然違うアプローチじゃないかな。

堀川:『エッ? だって、ちゃっかり‘IG’PXって・・・』

石川:だから初めて世界を狙ったって云うのは「IGPX」なんだよね。世界を狙ったって云うのは。

「流通は狙わない方がいい」

堀川:あと1つ、I.Gが国内で獲得していないものに流通がありますよね? 流通ではあまりにTVシリーズなら局、劇場なら配給会社が強いので、I.Gが流通を目指す可能性として、今BONESが「エウレカセブン」でやっているようなストリーミング配信を当然狙っていくものなんですか?

石川:流通は狙わない方がいいと思う。

堀川:あ、そうなんですか『いともアッサリと・・・』(笑)。

石川:制作会社が流通は狙わない方がいいと思うよ。大手に任せた方がいいと思う。

堀川:はぁ。

石川:そこは上手く組めばいいと思うよ。今は音楽業界でも、売れるミュージシャンを抱えている事務所が一番力があるんだよ。メディアをコントロールできるのね。ジャニーズ事務所が流通狙っているかって云うことだよ。と云うことは、アニメーションの制作会社が流通に行かなくても、そこに主張できるような環境さえできればいいってことだと思うんだよ。あとは、確かにネット配信だよね。これは以外にバカにならないんだよ。すごく手堅いよ、今。それは流通を持つことじゃないよ。どこか強いところと組めばいいんだよ。

堀川:ネット配信は地方プロダクションにとっての可能性でもあるんです。京都アニメーションを見ても。あそこは今、画面から溢れる作画のパワーはすごいって云うか、久々に見る消耗していない作画チームだなぁって。だから、僕ら地方プロダクションの希望なの。地方の制作プロダクションでもあれだけできるんだって。

石川:京都アニメーションにはちゃんと20年やってきたと云う歴史があるから。すごいと思うよ。だから今こうなったんだけど、ネット配信の前に「AIR」があった。そのタイミングがいい。だから、P.A.WORKSも下請を脱皮したときに看板になる作品をやって、会社の名前をクッとこう押し上げてね、それからネット配信を考えればいいんじゃない?

堀川:そうですね。

「そこには行く気が無いの」-勝者に許された台詞-

堀川:アニメーション業界が今注目されている著作権ビジネス部分と、作品の制作本数の激増に対して人材需要に応えられない多くの制作現場の、将来に対する諦めにも似たシニカルで自虐的な感情みたいなものがあるじゃないですか。アニメーションのサービス業と製造業の温度差が。そんな現状に対して、現場は今何に取り組んでいるのか、アニメーション業界はまだ成熟すらしていないのに凋落していくんじゃないか、じゃあどうすればいいのか、と云う僕の課題があるんです。ただ、逆の視点で見れば、そこにはまだいくらでも制作会社が企業として成熟する余地が残されているんじゃないかと思ったので、石川さんに‘アニメーション業界の制作会社が成熟する余地’って何なんでしょうねって先日聞いたわけです。
 目先の現実は、圧倒的な原画マン不足ですよね。攻殻を描ける優秀な原画マンが安定確保できなかった。僕が「S.A.C」で味わった悔しい敗北感です。監督は何も言わずに最後までチャンスをくれたけど。ぜったい数年後にはこの借りは返そうと。どうすれば僕らのような下請の制作会社が、優秀なクリエーターを確保できるんだろうって考えたんですよ。
僕ら制作会社は、うまく回せばローリスクローリターンなんです、実は。クリエーターがハイリスクローリターンなんですよ。今の世の中ハイリスクローリターンの業種に優秀なクリエーターが集まるわけないじゃないですか? 才能の仕事ですから職業として選択するにはハイリスクですけど、せめてハイリターンにしなきゃ優秀な人材なんて業界に入ってくるわけが無い。人材がいなきゃ僕らはつくり続けられないんだと。じゃあ、彼らに利益を還元するためには、僕ら制作会社はもうローリスクローリターンの位置にはいられないんだと云う意識をもって。

石川:うんうん。

堀川:ハイリスクハイリターンの著作権ビジネスに参入する。いい作品を優秀なクリエーターと作り続けるためには、コンテンツメーカーがコンテンツホルダーになるしかないんだと。それが5年間のビジョンに上げた1つですが、業界のビジネス構造を見たら、その為に獲得しなきゃいけないモノの道筋は、15年でI.Gが示してくれたように、元請昇格から著作権ビジネスへの参入、窓口権の保有と云う流れでしたよね。上位の相手と対等なパートナーシップを築き上げて来たドラマ。

石川:やっぱり人じゃない? 経営者はさ、著作権とかそんなの追っかけたって仕方ないと思うよ。著作権を見られる人がいればいいの、要するに。石川の代わりにキチッと契約書を見られる人間が参謀にいるだけで全然違うから。

堀川:エンタメロヤーってことですか?

石川:弁護士さんはリスクを見るのが仕事で、儲かるスキームかどうかを見てくれるわけじゃないよ。アメリカにはちょっといるけど。

堀川:そうなんですか? じゃあI.Gでは誰かがそう云う目で契約書を見てるんですか?

石川:人だよ人。これ、言えないけど(微笑)。人さえいれば契約はいくらでも変わる。人を見る目じゃないかなぁ。追いかけるとさ、著作権もそうだけど、お金も幸福も全て逆の方に行くから。うん。

堀川:解らないなぁ。

石川:堀川は、石川が権利を追いかけてTVシリーズをやったんじゃないかとか、著作権を獲得しようとしたんじゃないかとか言うけど、そこには興味がないんだよ、石川は、別に。そこには行く気がないの。

堀川:ほ・・・・・。

石川:でも、人に興味があるの。できる人間に興味があるの、世の中で。社内でも社外でも、誰ができて誰と付き合えばいいか。

堀川:そのチョイスに目的があってじゃ無いんですもんね? それが不思議なんですよね。

石川:うん。魅力じゃない? その人の。その人の話が聞きたいとかさ、その人と仕事がしたいって。

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