P.A.Press
2003.11.12

第1回 神山健治「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 監督 過激なインタビュー」

ナベツネの大号令でレアルマドリードが

「これをやれ」

神山:今、野球もね、大リーグに行くのが正義みたいなところがあるから、危ないと思うところもあるの。サッカーは先にそれが来ちゃったでしょ。選手の最大の目標はワールド関連の試合で活躍して海外に移籍することである。Jリーグは所詮世界の二軍って云うように自分達がしちゃったようにみえた。
仮の話だけれど、ナベツネ(渡辺恒雄)みたいなオッサンがJリーグにいて、セリエAの選手を金で買って、Jリーグが今世界で一番レベルの高い選手がいるリーグにしちゃうって云うことができたとして、極端なことを言えばだよ。で、とにかく今は赤字になったとしても、「これをやれ」って大号令のもとに、レアルマドリードみたいなチームをJリーグに作ります、と。日本をセリエAとごっそり入れ替えちゃいます。それじゃ日本の選手出られないじゃないですか、いえいえ、その中で20人、レギュラー獲ったらその20人が日本代表です。海外に移籍するって云う垣根なしに出来ます。世界最強です。相当揉まれているから。そうしたら時代は変わったかも知れない。いいか悪いかは別、結果はすぐには出ないからなんとも言えないけど、でも、夢物語って言ったらできないと思うよ。日本代表のワールドカップ優勝なんてさ・・・。

決めたらやらなきゃいけない。途中で曲げない。

神山:でも、そうするんだー!って決めたらやらなきゃいけないんですよ。周りの人を説得しなきゃいけないんです。監督はある種そういう職業だと思うし、ラインプロデューサーも、エグゼクティブプロデューサーも、その位置に就いた人はみんなそうなの。それが嫌な人は別にそこに就くことはないよ。俺はなりたかったから、なってみたらリスクを伴うし、責任があることを知ったって云うことですよね。だから、それが他人に対しては、ある種いっとき居心地が悪かったとしても、いずれ良くなるから今は言うことを聞いてくれって言うことしか俺はできないなぁ。で、それを提示したら途中でもう曲げない。

俺の組み上げたエギゾーストパイプが世に出ない?

この業界に懸けていくってことに対してはロジックがあるんだ

神山:三菱がね、ベトナムに工場を作った時に、部品を持っていったら向こうの人は車を組み立てる知識はそこそこあったんですよ。それでね、輸入されてラインに乗せる前の、倉庫に積み上げられた部品を、みんな勝手に使ってマイカーを作っちゃったんだそうです。待て、待て、と。車には規格というものがあって、全製品均一のものを作る。これが自動車メーカーだって云うことを現地の人に教えるのに相当時間がかかったそうです。「なんでだ?」と、「俺の組み上げたエギゾーストパイプの方が排気効率いいぜ」。ある意味良かったのかも知れないけど(笑)、そんな車は商品として世に出ないんだって云うことを強要していくのは相当大変だったそうです。でも、そうじゃないと自動車メーカーは成立しないんです。アニメーション業界は自動車メーカーじゃないよって言うかもしれないけど、作品を作っていく上で、会社を維持していく上で、これから先俺たちの将来をこの業界に懸けていくってことに対してはロジックがあるんだって云うね、それを押し通さなきゃいけない時もあるんですよ。

いや、6で行こう

神山:監督をやってみて、嫌な面もいっぱいあるけど、それを差っ引いて余りある良さがそこから先にあるはずだと云う確信も得た。そこでの責任は厳しいけど、やっぱりそれを進めていかない限り現状は変わらないんですよ。だからやっていこうと思ったしね。攻殻の荒巻というキャラクターを見てたからそう思ったのか、そう思っているものが荒巻というキャラクターにフィードバックされたのか、どっちが先か判んないけど。何か問題が起こったとき、6:4で、もしかしたら4くらい間違ってるかもしれないけど、この6に懸けて全員6に向かわせなければって云うね、当然4じゃないですかねぇって人もいますよ。でも、いや、6で行こう。6の方で。これはしょうがないんだよ。で、間違えたら、間違えたと気づいた瞬間に、スマンスマン!間違えだった。4だった!って、傷が小さいうちにね。それを意固地になってたらダメなんですよ。これはね、やっぱり、まだ俺にはできないですよ。俺もまだ尻が青いから、なかなか。でも、それを認めて軌道修正してトットとそっちに行く。敗北だと思って石頭になってるとヤバイことになるからね。

モー娘の誰かと結婚する為に動画20枚

人生最大の目標と最小の目標

神山:この2、3年、I.Gの新人入社式のときに何か喋ってくれって機会が増えてきたので、その時に必ず言っているんだけど、人生最大の目標と、この会場を出て机についた時にやる目標をね、最大と最小のやつ、二個持っとくんだと。どっちかではダメなんだ、と。将来、んー、そうだな、例えば、モー娘の誰かと結婚すると云うのを最大の目標とする。それと、今日、動画を20枚描こうと。最小と最大の目標2個は持っとけよ、と。それが最終目的に近づいて行く最小の方法なんだって云うのをね。俺はそうしてた。あんまり才能無かったと思うんですよ、俺。ただ、諦めの悪さと、その方法論だけはあったね。あー、今日厳しいけど、これだけは描いて帰るか、とか、仕事は終ったけど、企画のアイディアを少し練っとくかとかね。だけど、その先には、将来俺は自分の作品を絶対監督として作るんだって云う目標があった。

Chinese or Japanese foods, that is the question.”

中華くいてぇのか和食くいてぇのか

堀川:その「目標に繋がる」ってことで監督に聞きたかったことがあるんです。今の自分の状態をシナリオにしたらね、その最大の目標達成を次のクライマックスに設定することだと思うんです。このクライマックスが今の自分に設定できないって云うことは、今の自分の状態が既にクライマックスなんだ、と。将来の目標と云うか夢がないわけだから。

神山:ほー、誰もがその夢を持ち合わせているわけではないのではないかって云うことね?

堀川:というよりも、「モー娘の誰かと結婚したい」ってクライマックスは書いてる。じゃあ、今の自分の状況設定はこうだと、クライマックスに向けてどう盛り上げていこうかってね。今とクライマックスの間のプロット、その為にどう行動を起こそうか、自分に継続してどんな負荷をかけていけるか、そこは書けずにクライマックスだけ書いてる人間はいっぱいいると思うけど。

神山:なるほどね。それもそうかもしれないけど、常識的に考えれば、「今日動画20枚」~「モー娘と来年結婚」の間がゼロで成立するわけは無いことくらいわかってほしいよね。いくらなんでもさ・・・。でも僕の感覚からすると、クライマックスを設定できない人間の方が多い気がする。 俺はそう感じているね。でもね、それも練習だと思うよ。気付いていないだけで、日々その練習は自分の身に起きているんですよ。どういうことかと云うと、例えばね、そろそろ腹減ったなぁ、今日何を食いにいくかなぁって云うのもその練習なんえすよ。それに関して迷うやつ、中華くいてぇのか和食くいてぇのかでね、店の前で二日考え込んだバカはいないでしょう。「腹が減った」~「腹が膨れた」の間にそれが存在する。「財布にいくらあるか?」「その金で何が食えるか?」「栄養重視か?」「満足度重視か?」「時間的余裕は?」「では近くの中華料理屋か?」「それともコンビニの弁当か?」・・・そうやって少しずつ考えているわけでしょう。目標ってのも、その積み重ねだと思うよ。

そこに向かって行くことにするかどうかだよ

神山:例えば車が欲しいと思ったときに、今ある貯金で買える車にしようっていうのは当然として、「いやあ、ダメなんだよ」と、「俺の乗りたい車はすごく高いフェラーリなんだ」と、じゃあ貯めるしかないよね。そういうことなんです。それを自分に聞くっていう作業なんです、これは。次のクライマックスをどこに設定するのかって云うのと、それは実は一緒の行為なんですよ。それに気付いていないだけで、わりと手軽に練習機会は流れている。本当はこれが欲しいんだけど、いいや、これを買って諦めよう、とか、そういうところで実はその練習を放棄しまっているということなんですよ。俺はそう感じるけどな。目標を持つのすら練習がいるほどね、ヘコタレてるってことが悲しくはあるが、誰にも言っていないだけで、全然目標が無いやつもいないと思う。でね、そこに向かって行くことにするかどうかだよ。だから、もしモー娘の誰かと結婚したいんだったらアニメ業界辞めたほうがはやいよ、とかね(笑)。

あややがポシェットから出した飴」

注:写真の飴は本文と関係ありません

バカ言ってんじゃねーよ

神山:これ、面白い話なんだけど、攻殻のスタッフで「あややのファンだからあややに会いたい!」って言ったやつがいるのね。で、言ってみるもんだなって思ったんだけど、ものは試しにね、音響監督に「この役をあややにすることはできませんかね」、と。当然みんな、バカ言ってんじゃねーよと思うじゃん。だから口にすら出さないの、普通は。でも、口に出したら「うーん、ダメかも知んないよー」と言いながら聞いてくれたんですよ。そしたら、たまたまレコード業界に強いコネクションを持った人が知り合いにいて、「んー、話はつけられるかも知れないな」と云うところまで行ったんですよ。結果的に折り合いがつかなくて、この話は終わったかに見えたんだよ。

スゴイことが起こると思わない?

神山:ところが、出演者である山寺(宏一)さんが、自分の持っているラジオ番組にあややが来たと。そこで、たまたま「ファンの子がいるんだよ」って話をしたら、あややはポシェットから出した飴を、「これをじゃあ、その人にあげて下さい」って―それがそいつの元に届いたと。どう思う、もう?一歩努力したらすごいことが起こると思わない?「あややに会いてーなー」って口に出しただけでそこまでのことが起きたんだよ。そういうことなんだ、って云うね、だから思ったことは口にしろと。

LOADING