P.A.Press
2003.11.12

第1回 神山健治「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 監督 過激なインタビュー」

俺を買ってください

対になっているプロダクションがあるんですよ

神山:僕はProduction I.Gに俺の能力を全部投資していると思っているんですよ。石川さん(社長)に俺を売ってると思っている(笑)。「俺を買って下さい!石川さん」、それは何故かって云うと、偉業を成し遂げた先人たちは、やっぱりそこと対になっているプロダクションがあったと思う。富野(由悠季)さんだったらサンライズ、宮(崎駿)さんだったらほとんど自分で作ったような会社ですがジブリ、りん(たろう)さんはマッドハウス。庵野(秀明)さんはガイナックスとかね、プロダクションと作家というのはある程度対だと思うんですよ。これもよく野球と絡めて話をするんだけど、どんなにすごくても、あんまり渡り歩いちゃった人ってあとで結構苦労してるんですよ。だけど巨人の原なんて、あんまり良い思いはしていないなとも思うけれどジャイアンツと最後まで縁を切らなかったことによってまだチャンスがあるでしょう。川相は荊の道を歩みだしたよね。川相は自分の商品価値がジャイアンツと対じゃなことを証明して見せるって云うことでしょ?これはこれですごいけどね。40にしてジャイアンツと縁を切る。場合によってはジャイアンツが将来頭を下げてくるかもしれないって方に賭けたわけじゃない。わかんないよ、その選択が将来どうなるかはね。

Production I.Gから「君はいらないよ」って言われることがあるかもしれないし、わかんないよ、僕も。だけど、僕はProduction I.Gに必要な人間だという仕事をしているつもりだよ。俺だけが得をするような仕事はしていないと思っている。

中継ぎで行きますよ

完全な叩き上げですよね

堀川:現場を選ぶ監督は「I.Gなら恵まれたスタッフ、恵まれた環境で仕事ができるんじゃないか」とか「BONESなら恵まれた作画チームで監督ができるんじゃないか」と思っちゃうよね。

神山:僕はそんなに恵まれているスタープレーヤーじゃないから、野球で言えばたぶん実業団からテストで入団したクチだね。甲子園で優勝してドラフト上位で取られたような選手じゃないもん。当然みんなが好き好んで集まってくることもないし、どこに行ってもチヤホヤされることはないですよ。完全な叩き上げですよね。だからこそ、なおさらそのチームに必要な人間である必要があるんです。自分の結果を出すことによって、そのチームに必要なレギュラー選手であるって、シーズンが終わったときに判断してもらえる仕事をする。

泥臭い意識をみんな持て

神山:個人成績は年間16勝で最多賞とったけど15敗したらさ、それってチームにとってどうなんだよって思うわけ。中継ぎで2勝しかしていないけど、52試合登板して、しかも結果的に42試合は勝ちゲームになったと。これなら16勝15敗した投手と同じだけの年俸を要求できると云う自負は持てるよね。そういう仕事をするんだって思っているんですよ。
俺はこのProduction I.Gで今こそ企画を出すんだって言った時、「いま先発投手が全員肩壊して二軍で調整しているから、おまえ中継ぎでいつでも投げられるようにスタンバイしてくれ」って言われる前に、「中継ぎで行きますよ」と言いに行ったんだと思っているよ。そういう泥臭い意識をみんな持てって言ってもさ、ただのお説教みたいになっちゃうから面白くないかもしれない。けど、結果的にはそう云う意識ですら監督ができたんだって思ってもらえれば有難いんですよ。みんなが甲子園で優勝してドラフト1位でジャイアンツに入らなくても、けっこういいことあるぞってね、そういう風に思って欲しいなーって云うことかな。

今のクライマックスですか?

堀川:以前石川さんと話をしていてね、僕はI.Gは15年かけてここまでになったんだという感慨が石川さんにはあるんだろうな、と思っていたんだけど、石川さんは「I.Gは今やっと状況設定ができたんだよ」と(笑)。なかなか言えないよね。

神山:ハッハッハ。言えないね。

堀川:この業界に監督を目指して入ってくる人は五万といるって、そんなにいないんだけど、神山さんはそれを達成したと。できたから良いって云うんじゃあ・・・

神山:うん、そう。石川さん風に言えば俺はやっとプロテスト合格。

堀川:状況設定ができたとするのであれば、こっ恥ずかしいかもしれないけど、じゃあ次に神山監督が自分の中で描くクライマックスは何か。

神山:今のクライマックスですか? ―あのー、

堀川:オフレコでも。

神山:いや、オフレコじゃなく載せてもらってもいいんですけど、二つあって、一つは業界で一番売れたと云うソフト。売上記録を作るソフトを出す。―それはどうすれば良いのか解らないんですけど、すごく不本意な企画を監督することでそれができる場合もあるかも知れないんですよ。「こんなの撮りたくねー」っていうの。だからその時に、それを自分が撮りたいものに転化させながらソフトも売る、二つ目はこの能力を持っておくことだよね。これを身に付けておくのが今のクライマックスだね。でも、まあ、ぶっちゃけて言えば、金をもうけるってことだけどさ。

これで終わったらもうどうしようもないね

サラリーマンの星・若者の星

堀川:自分の次の目標を設定して、そのために今必要のはこれだ、と云うものを見つけて実行していく。F1の佐藤琢磨もそんな話してた。

神山:俺みたいな泥臭いのはあんまり格好よくないんだけどね。ある日突然出てきて、いきなり優勝して去っていくようなのをみんなやっぱり夢見るからさぁ。天才の称号の方が努力家って称号より全然格好いいからね。サラリーマンの星が松井君で、若者の星がイチロー君なんですよ。イチロー君だって努力はしているんだけど、あんまり努力の跡が見えないから。

諦めの悪い性格なので

神山:運が良かったなと思うのは、20代のころに勘違いするほど才能が無かったってことですよ。同世代で上手い連中は20代前半からどんどん脚光を浴びていって、お金も貰えるようになるし、雑誌に名前が載ったり写真が載ったりね、そういうのは羨ましいなぁと思って見ていましたよ。焦るしね。でもね、それが無かったので今来たのかもしれないけど、これで終わったらどうしようもないね。ただ遅れてきて、前の人がいなくなったから順番が回ってきただけかもしれないって云うね、それでは困っちゃう。まぁ、幸か不幸かすごく諦めの悪い性格だからここまで粘れたってのもあるので、ここから先もだいぶ粘ると思いますよ(笑)。

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