P.A.Press
2003.11.12

第1回 神山健治「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 監督 過激なインタビュー」

『アニメ業界をダメにした3人の戦犯』に俺の名前が載る

輸出産業なんかになっていかない

神山:年の初めに大会社の社長は、今年はこうするんだってビジョンを具体的に提示するじゃない。アニメ業界だけだよ、そう云うのが無いのは。今年こう云う作品を何本作って、どのくらいの売上を目指しますので、これに参加する皆さんには頑張って頂きたいと。で、年末にはこれくらいの寸志を用意したいと思っていると、これ重要なことだよ。俺、攻殻を始める時に、みんなにボーナス出る作品にするって言ったもん。ヒットさせて福祉会館を買い取って(I.Gの)1st、2st、3stが全部ワンフロア―に入るスタジオを作るって言った(笑)。買い取れませんでしたから戦犯ですけどね。だけど、俺は未だにそう思っているよ。結果的には攻殻だけではダメだったかもしれないけど、今後最終的にはそうなると言っていますからね。寸志は、俺はそれを実行したよ。これは素晴らしいよ。だから言うべきなんだよ、絶対に。アニメ業界だけだって、年の初めに目標が提示されなくて、目標に届こうが届くまいが何も報告が無いって云うかさぁ、それが今後主要輸出産業になるとか言われている仕事なんだよ。そんなの嘘だよ?輸出産業なんかになっていかないよ。確かにね、それだけじゃないんだけど、俺はそっちに意識を改革して行きたい。「金は儲かるようになったけど、日本のアニメーションはだめになった」とか何年後かに言われてさ、アニメ業界をダメにした3人って云うので戦犯に俺の名前が載ったとしてもね・・・。それもいいんじゃない。

ヤベー、音楽じゃねぇや

神山:日本の音楽業界はアニメ業界を脅威に思っていると思うよ。何故かって云うと、日本の音楽はアジアには売れてもアメリカやヨーロッパには売れないでしょ。でもアニメはアメリカやヨーロッパでも売れてるんです。脚本やってくれた佐藤大ちゃんがね、彼はアニメが好きだったんだけど、日本でアニメやっているとチョーカッコ悪くて女の子にモテないから、「俺、音楽やろう」って言って20代前半でドイツに行ったんですよ。そしたら「オマエの国にはアキラや攻殻機動隊ってのがあって、最高にクールな国だな」と。「オマエはそい云うアーティスト達と友達なのか?」って言われた時に、「ヤベー、音楽じゃねぇや」(笑)って思ったくらい海外では評価してくれているらしい。

エイベックスのような、流行の最先端で若者に格好いいといわれる文化を送り出している会社が、率先してアニメに出資するなんて80年代では考えられなかったですよ。当時俺も「君、何やってるの?」「アニメです」「ダッセー」って言われていた頃を考えれば、もう本当に夢のようだよ。「アニメの主題歌がオリコンで1位取ってる。うーん、アニメだ」ってね。それだけ一応は海外で勝負できるメディアなんだって思えるようにはなった。だから僕らはもっと足腰を強くしておかないと、現場が裕福になる前に新規参入組にアッと云う間に席巻されちゃうよとも思う。ボヤボヤしてたら。

ちーせぇーよ !!

「ちっちぇーんだよ」「ちいせぇよ」「ちーせぇーよ!!」

神山:「イノセンス」でI.Gがジブリと組んだことでね、世間ではI・Gがジブリに身売りしたんだなんてことも言われるけど、「ちっちぇーんだよ」と。そんなちっこいプライドは捨てる。今は遠回りでも3年後を見てるんだって。監督だってそうだよ。俺も最初は、攻殻でこんなに頑張っているのに「押井守プロデュースですか?」とかいわれてさ、「ちいせぇよ」。石川さんがね、「いや、違うんだよ神山さん」と。「失敗したら押井さんのせいにすればいいんだ。成功したら俺のせいくらいに思っておけばいいんだ。押井守の名前をリスクヘッジに使え」って。押井さんも「うん、いいんだよ神山、失敗したら俺のせいにしとけば」って言ってくれた。で、多分上手くいくと「うーん、そこはねー、俺が・・・」(笑)

堀川: (爆笑)

神山: ここが押井さんが最高にチャーミングなところなんだ。
アニメーションは、実写に比べれば本当は地理的な制約は小さいんです。地方で制作する可能性について、極端なことを言えばね、アニメ業界ごとどっかへ行くって云う選択肢もあるかもしれない。秋葉原を日本のハリウッドにする構想とか、国分寺がハリウッドになりゃあいいとかあるけれど、沖縄に行っちゃってもいいわけ。そう云う意味でP.A.WORKSも先駆けて地方に制作の足場を作ったというアドバンテージがあるじゃないですか。そう遠くない未来にアニメ業界誘致計画が動いたら、実績を作っておけば有利じゃないですが。アニメーターは出不精なので雪国が向いている、とかね。今はキー局が全部東京にあるし、プロダクションの絶対数が東京なのでなかなかすぐには難しいと思うけど。

ザックリみんな富山に行ったら、もう少し裕福感は高まると思いますよ。家賃払うのにヒーヒー言っているくらいならね。井上さんだって富山に行ったほうが豪邸持てるよ。井上俊之が豪邸持たなきゃさぁ、俺ら困るんだよ。そういう面ではアドバンテージはP.A.WORKSに既にあると思うし、「よし、そうしよう。富山を日本のハリウッドにするんだ」って云うね、最終到達点はそのくらいデカくていいと思うんだけど・・・どう?

堀川:俺たち北陸のDream Works目指すんだ。

神山:「ちーせぇーよ !!」(笑)・・・それでもかまわないけどさぁ、分かんないですよ、本当に。業界全体で移転しよう、とかね。東京に一極集中しているからいろんな弊害もあるわけじゃないですか。この業界一律横並びになっててね、どこに行っても同じフォーマットで作れるって云う良さはあったわけだけど、デジタルになってからそれは崩壊しちゃったわけじゃない。共通言語が一回リセットされたんですよ。でも、日本人は基本的に横並びが好きだから、いつまでも見合っててなにも決まらない。それこそ指針を声高に提示しちゃった奴が勝ちだと思うんです。踊らされる方が楽かもしれないけど、騙してでも躍らせて結果的に幸せにしてあげればいいんです。発信する側にこっそりなればいいんだよ。いかに具体的に他者に発信していくかと云うことですよね。難しいんだけど、いかに具体的にそうするか。騙されたと思うかもしれないけれど、最終的に勝ち組にしてあげればいいと思ってますよ。

P.A.WORKSはどっちだ(1)

堀川:最後に堀川とP.A.WORKSについての忌憚の無い感想とアドバイスを、できればリクルートの力添えになるコメントを頂ければと思いますが。

いきなり一年生になっちゃった

神山:堀川さんは制作という立場で、現場で監督と誠実に闘っていくことが最大の武器だった男だと思う。でも会社を持っちゃった事でその能力を発揮することができるのかって云うのが僕がまず思ったことなんですよ。それはね、別にずっと制作でいてほしいってことでは無いんだよね。寧ろ、もういいかげん制作じゃなくてプロデューサーと云う立ち位置で闘って欲しいと思うわけ。「人狼」ではProductionI.Gだったり、石川さんって云う後ろ盾があったと思うんですよ。石川さんがね、「お前は現場で思う存分闘ってこい」と。その割に武器は貰えずに闘ったと思うんだけどさ。「お前は竹槍で戦車と闘ってこい。竹槍は何本使ってもいいぞー」って。苦しかったと思うけど闘い果せた。でも、「人狼」と云う企画はそこに既に「在った」んですよ。それを作り上げるにはっていう方法論で、堀川さんは迷わず現場で闘えたんだとおもう。でもこれからは、その部分も自分で提示していかなければいけない。これは大変だろうなって。極端なことを言えば、その部分ではいきなり一年生になっちゃったと思うんです。

俺は0を1にする作業が一番難しいと思うんですよ。1を2にするとか、あいつは1を3にするぞ、とかね、そい云う評価を得ることは出来ても0を1にすることができる人間はこの業界の中でもすごく限られているんですよ。P.A.WORKSはこれから0を1にする側に回るのか、いや、1を5にも6にもする会社だって云う位置で勝負していくのか、どうするんだろうなって云うのが僕が外から見ている忌憚の無い感想です。

P.A.WORKSはどっちだ②

0を1にするのか1を5にするのか

神山:もし力を貸せるとするならば、俺は今後は0を1にする方へ向かうつもりなので、その部分かなとも思うんですよ。本当は単純に監督業って云うのは、1を2に、3に、10にしていく商売ではあるんだけど、僕は企画とか脚本と云う作業からこの職業に就いた人間なので、0を1にする方に時間を割いてきたタイプだと思うの。未だに一人で0を1に出来たことは一度も無いけれど、そこに力を入れて行くことにこれまでの半生を結構懸けてきた。格好つけたこと言うならね。その部分でもし力を貸せるのであれば嬉しいな、とも思うけれど・・・。

石川さんや押井さんが0を1にして、その1を人に渡すことでそれを2に、3にしていくってことが出来ている立場の人だと思うんですよ。企画を0から立ち上げるって本当に生半可なものじゃないんですよ。石川さんもI.Gの初期から0を1にしているわけでは無いと思うし。1があるところに行って、その1を貰えますか?うちはこの1を4に出来る会社なんです。と云うことで最初の10年実績を積んできたと思うんですよね。次の5年はようやく「1を4とか5にするよね、あそこは」と云うことで、「どうよ、この0を1にしてみる?」って仕事がようやくできたのが次の5年だと思う。更にここからが、全くの無を有にしていく作業に本腰を入れていく時期に来たんじゃないかって感じるのね。それは石川さんをしてProductionI.Gが15年かけて初めてそこに辿り着いたので、その同じ地平を目指すのであれば、やっぱり15年以上かかると思うんですよね。

今自分の持っているマンパワーと云うか、内蔵されている資源をフル活用して、まず1を2に出来る状態だとするならば、来年は1を3に、さらに翌年は1を4にしていく。1を5にする力があって初めて0を1に出来ると言うのであれば、5年の長期的なスパンで引き上げていくって云う方が効率はいいと思うんですよ。これが1つの選択肢。もう1つは、それもすっ飛ばして今とにかく0を1にするんだと云う道もあると思うんです。その時は何を捨てて何を取るかと云う判断がずいぶん違うと思う。それは指揮官が決めることです。もしそうするのであれば、誰が反対しようが、泣こうが喚こうが、そう云う事なんだ、と周りを説得せざるを得ないんです。指揮官が具体的なビジョンを持たなきゃいけないと思うんですけどね・・・。どうでしよう?

堀川:長い時間(4時間半も)どうもありがとうございました。神山さんの考えを大切に記録し、今後の糧とさせていただきます。

champion:ある人のために代わって戦ったり、ある主義主張のために代わって議論する人。
チャンピョンと云う言葉にこんな意味があったことを、大江健三郎の著書「新年の挨拶」に収められている「チャンピョンの定義」で知りました。神山さんはアニメーション業界で僕等の世代のチャンピョンになることを、幸か不幸か背負ってしまったんですね。骨のある作品を通して観る者、作る者をインスパイアーし続けることを期待しています。もちろん傍観するつもりはありません。

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